子どものネット・ゲーム依存を防ごう! 周りの大人ができることとは?
教育問題
不登校
2023/04/13
自分のPCやスマートフォンを持つ子どもが増え、インターネットやゲームがより身近になっている今、ネットやゲームへの依存症を心配する保護者も多いと思います。
実際、「子どもの7%にゲーム依存症の可能性がある」という研究結果も、2022年8月に長崎大学の研究チームが発表しています。
同研究チームで、長崎県内の小学4年生~高校3年生を対象にアンケートを実施したところ、分析の結果、ゲームをやめたくてもやめられず、日常生活よりゲームを優先する「ゲーム依存症」の傾向を示す子どもが全体の約7%に上ったとのこと(回答者数4048人)。
また、コロナ禍以降、ゲーム依存症の傾向を示す子どもの約8割が「ゲーム時間が増えた」と回答したそうです。
では、「依存症」とは、具体的にはどのような状況をいうのでしょうか。
そして、子どもが依存症に陥る前に、周囲の大人はどうしたらよいのでしょうか。
今回は、株式会社KENZAN(ケンザン)が運営する「ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)」所長で、ネット依存専門心理師の森山沙耶さんに、詳しく教えていただきました。
日常生活や健康に支障はある? 依存状態の見分け方
「うちの子、ちょっとゲームをする時間が長すぎるのでは」と心配している保護者も多いと思いますが、森山さんはこう言います。
「長時間利用しているからといって、それだけで依存症ということにはなりません。依存症とは、コントロールに障害をきたしている状態のことをいいます」
たとえば、ゲームのやりすぎにより成績がすごく下がってしまっていたり、昼夜逆転していたり、引きこもって外に出られなくなっていたりする場合は、依存症の危険信号とのこと。また、視力の著しい低下や、食事や睡眠がとれなくなっているなど、体調に悪影響を及ぼしているケースもあると言います。
「夜中までゲームをして朝起きられなくなり次第に学校に行けなくなったり、ゲームを取りあげようとした家族に暴力をふるったりしてしまうケースもあります。生活だけでなく、自分の感情もコントロールできなくなっていく場合もあるんです」
世界保健機関(WHO)が作成する病気の分類「ICD」の中には、2019年に「ゲーム障害(ゲーム行動症)」が新たな疾病として加えられました。これによれば、主に次のような状態がゲーム障害とされています。
- ゲームをする時間や頻度を自分でコントロールできない
- 日常生活でゲームを他の何よりも優先させる
- 生活に問題が生じてもゲームを続け、エスカレートさせる
「これらの条件に当てはまる状態が1年以上続いていると、依存症と診断される可能性があります。ただし、特に子どもの場合は急速に依存症に進行することがあります。診断基準では、症状が重症である場合は1年未満でも依存症と診断できるとも記載されています」
ただし、MIRA-iに保護者から寄せられる相談は、依存症とまではいかないケースが多いと森山さん。
「聞いてみると、ゲームは1時間で終わらせているなど、家庭のルールを比較的守れている子どももいます。保護者が心配して声をかけると『もうちょっと』と言われ、保護者の不安が余計に高まり、親子関係がギクシャクしているというケースもよく見られます。
ゲームをやめさせようとしたら暴言を吐かれたなども、通常の思春期における反抗的な行動の一つであるケースも多いです」
依存症に対して心配するあまり、家族関係を悪くしてしまわないためには、「子どもにとってはゲームもコミュニケーションツールのひとつだと理解する必要がある」とのことです。
オンラインゲーム上で友達とやりとりをしていたり、学校で共通の話題になっていたり、子どもたちはゲームを介してコミュニケーションをとることがよくあります。
「とはいえ保護者が困っていることは事実なので、規制しすぎず、うまく対話ができるとよいですね」
MIRA-iでは、子どもとうまく対話するためのアドバイスも行っているとのことです。
ゲームをやめさせるより、ハマる背景を丁寧に探ろう
では、子どもがネット・ゲーム依存に陥らないために、周囲の大人には何ができるのでしょうか。
具体的なケースを例に、説明してもらいました。
ゲーム依存になってしまったAくんの経緯事例
※複数の事例を合わせた仮想事例です
「このケースでは、ネガティブな感情や苦痛を緩和させる手段として、Aくんがゲームにハマってしまっていることがわかります。現実の中で、本人の対処能力を超えたストレスがかかったことにより、そのストレスに対処する手段としてゲームが使われるようになっていることが多いのです」
これを理解すると、「ゲームをやめさせる」よりも先にやるべきことが見えてくると言います。
「子どもの困った行動を見ると、“困った子”とラベリングしてしまい、厳しく関わらなければいけないと叱責や厳しい罰を繰り返してしまう大人もいます。でも、それではAくんのように悪循環を生み出してしまいます。ポイントは、自己責任の問題にしない、本人自身を責めないこと。悪循環ではなく、別の好循環を生み出していくことが重要になります」
たとえば、「ルールを守れていない」という部分に着目するのではなく、その中でもできている面を見つけて褒めるなど、肯定的に子どもをとらえ、子どもの自己効力感、自尊心の向上に努めることが大切とのこと。
頭ごなしに叱ったりゲームを取りあげたりすれば、日常生活の中でイヤなことが増えていってしまい、余計に依存度が高くなるかもしれません。これを踏まえて、「勉強してほしい」など大人側の願望をいったん抑え、丁寧にコミュニケーションをとっていくとよさそうです。
「そして、ネットやゲーム以外に、その代わりになる楽しい活動を探していくとよいでしょう。よく見ていると、子どもがゲームによって何を得ているかが見えてくると思います。
クリアできる達成感なのか、競争できる楽しさなのか、アイテムを集める楽しさなのかなど、子どもによって楽しみ方は異なります。その楽しみに近い、別の活動に取り組む機会をを与えてあげられるとよいと思います。
ゲームよりも本を読みなさいとか、勉強をしなさいと言われても、それを本人が求めていないのであれば、ゲームのほうがいいと思ってしまいます。どういうことに子どもが喜びを感じるのか、丁寧に見てあげることが大切です」
たしかに、ゲームのどんなところを楽しんでいるかがわかれば、ゲーム以外に好きそうなことも思いつきやすくなりそうです。
「第一歩は子どもがハマっているコンテンツについて一緒に話をしたり、試しにやってみたり、眺めてみたりすること。やめさせるというよりも、バランスよく、ボードゲームやスポーツなど他のことも楽しみの選択肢に入れられるとよいでしょう。
子どもが見ているYouTubeを一緒に見て、それをきっかけに『今度一緒にやってみよう』『このアイテムを買いに行ってみようか』と行動を広げるなど、ひとつのものにハマらないように好きなものや楽しいことを分散させると、深い依存を防ぐ手立ての1つとなります」
「現実のすべてが楽しくない」となると、ネットやゲームに依存しがちになってしまいますが、他にも楽しいことがあったり、自分を肯定してくれる人がいたりすれば、子どもは現実生活の中で安心して過ごすことができます。
大人がすべきは、子どもが現実の中で安心して暮らせる環境をつくることというわけです。
子どもたちが自分で身を守ることもできる!
MIRA-iでは、学校で児童・生徒たちを対象に出張授業をすることも多いそうです。そこでどのようなことを子どもに伝えているのか、聞いてみました。
「子ども向けには、自分を大切にするネット・ゲームとの付き合い方を考えてもらい、依存に対しての正しい知識を得てもらうようにしています。ゲームやネットにはいい部分ももちろん多く、使ってはいけないわけではありません。でも、自分や誰かを傷つける付き合い方をしていませんか?と考えてもらっています」
子どもたちに考えてもらうには、次のようなステップを用意しているとのこと。
●ステップ1:振り返る
1日を円グラフで表して、いつ、何をどれくらいしているか可視化する
●ステップ2:ルールを決める
ネットやゲームをする時間、勉強をする時間を自分で考えて決めてみる
●ステップ3:やり過ぎを防ぐ
自分はどういう状況だとネットやゲームをやりすぎてしまうのか、きっかけを見つける
●ステップ4:リアルでの活動を増やす
ネットやゲーム以外で増やしたい活動は何かを考える
「依存症を防ぐには、自分の生活を見直し、ルールが守れなくなるときには、何が引き金になっているかを振り返ってもらいます。そして、それを避けるにはどうしたらいいのかと考えていきます。
ネガティブな感情が依存のきっかけになるなら、その対処方法を考えて、ネットやゲームに逃げ込まずに済むようにしていきます。また、ネットやゲーム以外の楽しい活動を考えておけば、他の選択肢をとることで依存を防ぐこともできるようになります」
こうしたことを子どもたちに伝えるには、学校という場がベストだと森山さんは言います。学校外で講演会やワークショップを開く場合には関心のある人が集まりますが、本当に必要な状態に陥っている親子には届いていないと感じることも多いのだとか。
「先生たちが自分で学んで子どもたちに教えてくださってもいいですし、私たちのような外部から講師を呼ぶのもよいと思います。広く子どもたちに伝えられれば、『自分はもしかしたら依存症かもしれない』と子どもが気づけたり、先生が気づいたりして、早い段階で防いでいくことができます。
また、先生を含め大人たちがネットやゲームを悪いこととして子どもたちに注意するのではなく、正しく理解していくことで、子どもとの信頼関係が築きやすくなります。もし依存に近い状態の子がいたら、『何か困っていることがあるのかも』というサインとして受け取れればよいなと思います」
ネットやゲーム依存を正しく知ることで、子どもとの関わり方が変わっていくと森山さん。もし深刻な状況になっていても、大人が正しい理解のうえで子どもに接することができれば、専門機関や治療機関にもつなぎやすくなっていくと言います。
MIRA-iでは、2023年4月20日に学校・自治体・官公庁・学習支援機関の方に向けて、オンラインセミナーを開催予定。詳しく聞きたい方はぜひ参加してみてください。
取材協力
ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)所長森山沙耶さん
臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。2012年東京学芸大学大学院教育学研究科を修了。家庭裁判所調査官、大学病院や福祉施設にて心理臨床を経験。2019年8月、独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにてインターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)を修了後、MIRA-iの設立に携わる。現在はネット・ゲーム依存専門心理師として、カウンセリング・講演活動を行う。
ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。