“安心感”が次の選択肢を作る! 高校生世代のための無料学習スペース「リファインド」の居場所型支援とは?
教育問題
不登校
2018/04/09
一人で勉強し続けるのは、困難で孤独な道のりだ。
たとえば家庭の経済的な理由によって、たとえば全日制高校の受験不合格によって、たとえば学校に馴染めず不登校になったことによって、定時制高校や通信制高校に進学した若者たち。孤独になりがちな彼らは、一体”どこ”で勉強を続ければいいのだろうか。
そんな若者たちを、少し変わった形で支援する無料学習スペースが東京・四谷駅近くにある。低所得家庭の子どもたちへの教育支援事業を手掛けるNPO法人キッズドアが運営する「リファインド」だ。
2016年10月にオープンした「リファインド」の利用登録者は、現在約30人。その多くが高校中退者や不登校経験者で、通信制高校や定時制高校に通っている。年齢は15〜24歳と幅広い。
何らかの理由によってメインストリームから外れた高校生には、少し暗くて内向的なイメージが付きまとうかもしれない。しかしリファインドに足を踏み入れれば、そんな先入観は即座に払拭される。明るい挨拶と笑い声。まるで仲のいい友人と楽しく過ごす休み時間のような賑わいだ。
運営資金の大部分はクラウドファンディングで集めているため、利用者には費用負担がない。さまざまな事情で全日制高校に進学・修了できなかった若者がここに通い、勉強することで、高卒認定試験の合格実績が次々に生まれているという。
どういった取り組みによって、確かな結果を残すことに成功しているのか? リファインドの責任者を務めるNPO法人キッズドア教育支援事業部のチーフコーディネーター、小杉真澄さんに話を伺った。
●お話を伺った人
1991年生まれ。学生時代に産後の女性の支援を行うマドレボニータにて、インターン活動に取り組む。女性支援と、子ども支援は切っても切れないことを実感し、大学卒業後にNPO法人キッズドアへ入社。高校生支援事業「ガチゼミ」などのプログラムに従事したのち、「リファインド」の運営を行う。
将来も自分で学んでいけるよう、きちんと自習ができることを目指す
――そもそもリファインドは、どういった場所なのでしょうか?
リファインドは週5日間、火、水、木、土、日の15時から20時30分までオープンしている学習スペースです。
勉強を教えるのは社会人や近隣大学に在籍している学生がチューターで、英語や数学などの科目はもちろん、学習計画の立て方も個別支援しています。
単なる自習室ではなく、居場所型支援を掲げているのが特徴です。「ここは安心できる場所」と利用者が感じられるような環境を作り、落ち着いて勉強に取り組めるような場所を提供しています。
――利用者は、どんな理由でリファインドに来るのでしょうか?
不登校経験や、家庭の事情でやむを得ず行うアルバイトなどによって授業についていけず、次のテスト結果によっては進級できない可能性がある高校生や、すでに高校を中退した方が多いですね。あとは、通信制高校でレポートの課題があるけれど、自分だけでやり続けるのに難しさを感じている子。彼・彼女らの目標は、高卒認定試験の合格から定期テスト対策まで、様々です。
これまでに高卒認定試験に全科目受かった子が3名、一部合格した子が4名出ています。ほかにも、都立高校に転入学した子が2名。高卒認定試験合格後も、将来を考えて簿記の資格をとったり、他団体のプログラムに挑戦したりするなど、目標に向かって挑戦を続けている子もいます。
――運営を始めてまだ1年半と考えると、早くも結果が出ているんですね。
基本的に、自分でリファインドに訪ねてくる時点で、勉強に対する不安や問題意識を持っている子が多いんです。落ち着いて学習ができる環境さえ整えば、自然と主体的に勉強し始めますよ。大人の自分から見ても、本当に頑張っているなぁ、と思います。
目標に向かって努力し、結果を出すことが自信につながるんです。だから居場所を作ると言いつつも、合格にはちゃんとこだわっています。
やはり社会に出てからは、自分で考えて実行していく力が絶対に必要じゃないですか。だから、ただ受け身で勉強を教わるのではなく、最終的には「自分で計画を立てて勉強ができるようになる」ことを目指しています。
もちろん、勉強時間を無理に管理するようなことはしていません。チューターは利用者に、「今日は何をやるの? いつまでにそれをやるの?」と問いかけ、利用者はそれを自主的に決めています。LINE@を使ってチューターのスケジュールを配信することで、利用者が勉強計画を立てやすいよう工夫しています。
ただ、会って間もない大人から、いきなり計画の見通しを押し付けられても頭に入ってこないじゃないですか(笑)。だから、最初は信頼関係を築くところから始めます。生活支援の一環として提供している「軽食」が、そのきっかけになることが多いですね。
――軽食、ですか。
リファインドでは毎晩、軽食を用意しています。買い出しから調理、片付けまでを利用者が行っているんです。これによって、ご飯が炊けるようになるし、自分で料理もできるようになる。こういうのも将来、自立した生活をするのには絶対に必要になりますから。
だいたい3回くらい大人のスタッフたちと食事をしながら会話すれば、少しずつ打ち解けていくようです。このコミュニケーションでお互いの信頼感が生まれ、落ち着いて勉強できる安心感につながっていきます。
私たちとしては利用者同士が仲良くしてもしなくてもよいと思っているのですが、同年代のつながりにも良い影響があるようです。学校にはあまり馴染めず友達ができなかったけれど、ここでは親友を見つけたという子もいますから。
高校中退すると、生活の基盤も失う可能性がある
―――そもそも、なぜキッズドアがリファインドを始めることになったのでしょうか?
キッズドアは2012年から、高校生を対象にした学習会「ガチゼミ」を月2回ペースで開催していました。その参加者の中に、高校を中退した子が一定数いたんです。
98%の中学生は高校に進学するものの、その1.5%ほど、現在は年間約5万人の中退者がいます。もちろん通信教育やフリースクールといった選択肢もありますが、お金がないとそういった支援も受けられません。金銭的な問題で、中退後の選択肢が大きく狭まってしまうのです。
たとえば児童養護施設で育ち、高校進学をしたのち、さまざまな事情でうまく学校に馴染めず、そのまま中退してしまうケースも見られます。すると児童養護施設も退所しなければならず、学校の基盤だけでなく生活の基盤も一気に失ってしまうことになります。
そういった子たちには、月2回の勉強会以上にもっと根本的な生活支援が必要です。それができる場所を作りたいと思い、クラウドファンディングで約220万円を準備し、やっとオープンしたのがリファインドです。
――食事の提供も、そういった事情があるからなんですね。どうやってリファインドの利用料を無料に設定できたのでしょうか?
大きな要因は、東京都庁の「中途退学者等学び直し支援事業」の一環として運営している点です。そのほかの運営費は、助成金や寄付などでもまかなっています。軽食として出しているお米や食材、調理器具なども、寄付していただいたものがあるんですよ。
安心感が、勉強に集中する基盤になる
――実際にリファインドで過ごすことで、利用者にはどんな変化が起こるのでしょうか?
印象的だった利用者さんがいます。発達障害があったこともあり、最初に通っていた学校ではコミュニケーションがうまく取れず、トラブルを頻繁に起こしていたと聞いていました。しかし、リファインドでは個別指導の相性がよく、みるみるうち生活も落ち着き、勉強に集中できるようになったんです。その生徒をリファインドへ繋いでくださった東京都のソーシャルワーカーの方も驚いていました。
学校の先生はものすごく忙しい中で、大変な努力をされています。ただ、全ての生徒一人ひとりに長い時間をかけることはどうしてもできません。生徒にとっては、大人がじっくり時間をかけてくれる安心感が学習のベースになるんです。
―――もし次のステップに進みたいとなったら、リファインドは卒業になるのでしょうか?
大学進学のための機会など、リファインドでは提供していない支援が必要になったら、先ほどお話した学習会「ガチゼミ」や適切な他団体を紹介するようにしています。
とはいえ、リファインドには卒業が明確にあるわけではないし、来たくなったらいつでも来てくれればいい。彼ら自身が、自分のタイミングで卒業を決めればいいと思っています。むしろ学校を卒業したり、新しいことを始めたりする時って、この先どうなるかわからなくて不安じゃないですか。リファインドは、そういう時にも頼ってもらえる場であればいいなと考えています。
情報が得られるから、次の選択肢が見つかる
――まさに、学校でも家でもない「居場所」を作っているんですね。
不登校や中退というと、世間からはどうしても暗いイメージを持たれてしまいます。でも、本当はそうではなくて、ただその子がその学校の環境に合っていなかっただけなんです。
私たちからは、学校に行くのがいいとも、悪いとも言いません。高卒認定試験を目指す子もいますし、それ以外の目標を持つ子もいます。大切なのは、それぞれの目標をちゃんと目指せるような環境を整えてあげることです。
とはいえ、すぐに「将来はこうなりたい」と決める必要もありません。もし何か興味が芽生えたら、まずは「手足を動かして行動して、憧れる人に会いに行ったり、興味のあるものを見てきたりしたら?」と伝えていますね。
こういった居場所があれば、新たな情報を得られます。リファインドに来るだけで、いろいろな生き方をする大人に出会えます。大学生チューターにゆるく相談をしてみれば、「こんな大学生もいるんだ」と大学に対するイメージが変わることもあります。それ以外にも、こうやって取材に来てくれたり、パンを持って来てくれる大人がいたり……。
ここにいる子たちには、世の中にはいろいろな生き方があることにも気づいてもらえればうれしいですね。
(企画・取材・執筆:鬼頭佳代/ノオト)
取材協力
NPO法人キッズドア
「すべての子どもが夢と希望を持てる社会の実現」をビジョンに掲げ、東京や東北地域にて、経済的に困難な子どもたちの向けの教育支援を実施する。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年4月9日)に掲載されたものです。
なお、記事中の「リファインド」の運営は現在は終了しております。