校則が厳しすぎる! 納得できる校則見直しは一体どうやる?
教育問題
2023/07/04
男子のツーブロック禁止、靴下の色は白のみ、教科書は毎日家に持ち帰る……。
学校によってさまざまな校則がありますが、中高生にとっては、「どうして?」「もっとこんな選択肢もほしい」と感じる内容のものもあるのではないでしょうか。
しかし今、こうした校則を見直そうという学校が増えてきています。
大きな背景のひとつは、2022年12月に公表された文部科学省による生徒指導提要の改訂版と、2022年6月に公布され、2023年4月から施行された「こども基本法」。
生徒指導提要では、校則は児童・生徒の意見を取り入れながら時代に合わせて校則を見直すように促され、こども基本法によって子どもの権利擁護や意見表明の機会の確保が法的に認められるようになりました。
改訂された生徒指導提要では、「普段から学校内外の関係者が参照できるよう、学校のホームページで公開する」ことや、「見直しに当たっては、児童会や生徒会で議論する機会を設ける」ことなどが記載されています。
つまり、校則を可視化することで、学校内だけでなく保護者や地域の人々など、より多くの人が共に考えられるようにし、子どもたちが主体となって校則について考え、見直しができるようにするといった動きが、今起こっているわけです。
では、生徒が校則を変えたい、見直したいと思ったときには、どのような手順を踏めばいいのでしょうか。
今回は、全国約200校の中学校・高校と連携し、校則改正をサポートするプロジェクト「みんなのルールメイキング」を手がける、認定NPO法人カタリバに詳しく伺ってみました。
小さな変更でも、「自分たちで変える」経験が成長に繋がる
「校則を見直したい」とカタリバに相談する事例としては、学校(教員)側から声がかかるケースと、生徒たち自らが相談してくるケースとがあるそうです。
生徒たちから「この校則はおかしいよね」と声が上がるケースはともかく、学校の大人たちからも校則を見直そうという声が上がるのは意外にも感じますが、
「先生たちの中にも、数年も見直されていない校則に疑問を感じている方は多いんです。生徒から『どうしてこういうルールなんですか』と尋ねられて答えに困ったり、疑問に感じていても校則を守るよう厳しく指導しなくてはならず葛藤があったりといった声も耳にしたことがあります」
と、カタリバでルールメイキングのプロジェクトを担当する藤本雅衣子さん。
「ただ、先生たちも校則を見直した経験がなかったり、校則を見直すための校則が存在せず、どのような手続きをすれば変えられるのかわからなかったりすることも多いんです。そこで、私たちは他校の事例なども参考にしながら、その学校のケースに合わせてルールメイキングのプロセスに伴走しています」
一校一校をサポートするだけでなく、教員同士が学び合う勉強交流会を開催したり、教育委員会の研修でルールメイキングについて話したりと、より多くの学校がルールを自分たちで見直せるためのサポートをしているとのこと。
ルールメイキングによって具体的にどのような校則が変わっていくかというと、
「髪型や服装に関することは生徒にとっても着目しやすい校則だと思います。今まで伴走してきた学校では、ツーブロックの禁止をなくす、制服を標準服にして、着るか着ないかは選択できるようにする、といった変更がありました。
また、校則だけでなく、『より過ごしやすい学校にするために』という観点で、風が吹くと教室内にひらひらはためいてしまうカーテンを変えたい、という意見が生徒から出たこともあります。いずれにしても、大切なのは、なぜそうしたいのか意見をきちんと表明し、大人もその意見を受け止めて共に考えることです」
たとえば髪の毛のカラーリング禁止のルールを変えたいのなら、生徒はなぜ髪の毛を染めたいのかを言語化し、大人もその声に耳を傾け背景や理由を知ろうとすることが大切だと言います。
「子どもにとっては自分の声を大人が聞いてくれた、自分たちで変えられたという経験がとても重要なことだと思います。
靴下の色が変わっただけで学校生活が大きく変わることはなくても、小さな成功体験が積み上がっていくことで、自己肯定感が育まれたり、自分の頭で考えて行動していく力が身についたりします。学校の大変革を起こすような内容ではなくても、自分たち一人ひとりの声が大切なんだと実感できることが、子どもたちの成長に繋がっていきます」
このような観点から、「校則がおかしいから変える」という出発点ではなく、子どもたちの成長に繋げるためにルールメイキングに取り組む学校も増えてきているのだとか。
一方、昨今では「ブラック校則」という言葉も出てきており、「下着の色は白のみ」など、子どもたちの人権を侵害しかねないような内容の校則も見受けられます。藤本さんは、そのような校則がなぜできたのかに目を向けることも大切だと話します。
「たとえば学校から帰った後、何時以降は外出禁止、友達の家に泊まりに行ってはいけないというルール。一見すると厳しすぎるように感じますよね。でも、たとえば家庭の事情で夜ひとりで過ごす子どもが多い地域で、子どもたちが夜中に出歩いて危険な目に遭う可能性を下げるために外泊を禁止にした ―― としたらいかがでしょうか。
いわゆるブラック校則と言われる校則は、子どもが安全に過ごせるようにという大人の願いが込められて制定されていることもあります。こうした 過去に校則が制定された背景も踏まえつつ、ルールメイキングにおいては、本当に子どもたちのためになるのはどんなルールだろうと考えていきます」
何のためにルールがあるのかを忘れず、今のルールができた過程にも目を向けながら見直しを進めることが大切だということです。
生徒と大人たちとの丁寧なキャッチボールがポイント
それでは、ルールメイキングはどのような手順で進めていけばよいのでしょうか。
「みんなのルールメイキング」では、まず5〜6月にルールメイキングに取り組む有志を集めてチームを作るところからスタートするそうです。
「単純に多数決で『ここをこう改正します』と決めていくのではなく、まずは何のために校則を変えるのかについて、チームで話し合っていきます。たとえば『みんなが幸せになれる校則にする』など、まずはマインドセットをしっかり形成したうえで、ルールメイキングがスタートします」
多数決で決めるのではなく、少数派の意見はどうするのかといったことも自分たちで話し合って考えていくそうです。
「その後、先生たちも交えて、どの校則を見直すか検討していきます。夏から秋にかけては生徒たちにも調査して意見を拾い上げます。中には、卒業生たちが就職や進学した企業や大学などに足を運び、『こんな髪型の人が面接を受けに来たら、どう感じますか?』『前髪の長さは入試の結果に影響しますか?』『中高生がお化粧をしていたら印象は良くないのでしょうか』とインタビューなどの調査をすることもあります」
こうして、さまざまな調査をしながら自分たちのルールを作るための材料集めを進めて、改正案を作り込んでいきます。
「ポイントは、対話です。『こうしたい』という自分の意見を一方的に押しつけるのではなく、自分とは違う意見にも耳を傾けて、対話を通じてお互いの共通点や折り合える点を見つけていきます。こうしたプロセスを踏んで、新しい校則案を文書化して先生に提出したり、生徒総会で議決をとったりして、最終的に校則改正を実現します」
学校によっては、試行期間を設けて、実際に校則が変わってどうなるかを実証実験したうえで本格的な変更を行う場合もあるとのことです。
「先生たちには、生徒から出された案に対して、OKかどうか結果だけを伝えるのではなく、承認できない場合にはその理由を説明してもらいます。結果をジャッジするだけでなく、最終的な決定に至るまで、大人と子どもでしっかり対話をすることが重要です。
提案を却下して終わりではなく、どこが先生や学校の立場として承認できないのか、どこを変えれば承認できるのかフィードバックしてもらい、大人と子どもがキャッチボールしながらお互いに納得できるものを作り上げていくことが、お互いにとってプラスの経験となっていきます」
中には、過去に荒れていた時代を経験している教員が、校則改正に不安を感じていることがハードルになってしまっていることもあるそうです。しかし、そういう教員たちに反発するのではなく、不安な気持ちにも目を向けていくことが成功のポイントになると言います。
「校則を見直すことに反対している先生でも、『ここは見直したほうがいい』と思っている点がある場合もありますし、なぜ現状の校則を残したいのか意見を聞くと、もっともな理由がある場合もあります。
たとえば、学校に対して保護者や地域からの強い要望があるために、校則を変えづらくなっているケースもあります。それなら保護者や地域に理解してもらい、学校をより良くするためにサポートしてもらうような工夫も必要となります」
改正にハードルがあった場合にも、このように対話を通じて解決していくことが、子どもたちにとって貴重な経験になっていくはずです。
ルールづくりを通して、信頼関係やポジティブな雰囲気が生まれる
では、ルールメイキングの実践を通じて、生徒たちや学校は、どのように変化していくのでしょうか。
「生徒たちからは、大人が意見を受け止めてくれた、自分の意見には価値があると感じられたことが嬉しかったという声をよく聞きます。これまでは大人がルールを決めて、子どもが守るという上下関係があったけれど、自分たちでルールを作り直すことで大人と子どもが対等になり、互いに信頼関係が築けたという声は、生徒だけでなく先生からも聞かれます。
また、校則がおかしいと思っていても他の先生たちに遠慮して言えなかったという先生が、職員室の中で自分の意見を言いやすくなったと話してくれたこともありました。ルールメイキングを通して、先生と生徒との間の風通しも、職員室の中の風通しも良くなり、学校全体がポジティブになっていくんです」
さらに、生徒たちの間では、与えられたルールではなく、自分たちで納得して作り上げたルールだからこそ、守っていこうという雰囲気も生まれます。
「見直された校則に違反する生徒が出てきたときにも、なぜルールを破ったのか理由に耳を傾け、もしそのルールがつらいと感じる生徒たちがいるならルール自体をまた見直していこうと、次にも繋がっていきます。
子どもたちが大人になってからも、言われたことを言われた通りに実行するだけでなく、こうしたほうがもっと良くなるのではないか、と自分なりに考えて行動することが大切です。子どものうちにこうした経験を積みながら、自分自身の意見に価値を感じ、自分が社会の作り手になれるという意識を持つことが、より良い社会を作っていくことに繋がっていくと考えています」
ルールメイキングは、社会の中で活躍する力を身につけるためにも、貴重な経験となっているようです。
カタリバでは、ルールメイキングに取り組む全国の生徒たちが9月に集まる「ルールメイキング・サミット」(オンライン)のほか、さまざまな研修・交流イベントを開催しています。
また、ルールメイキングを実践したい・実践している小・中学校、高学の教員が参加できるコミュニティ「ルールメイキング・パートナー」もサイト上から登録できます。
校則改正にチャレンジしたい生徒や学校は、こうしたサポートを活用して他校の事例を参考にしてみてはいかがでしょうか。
取材協力
すべての10代が未来をつくりだす意欲と創造性を育める社会を目指し、2001年から活動する教育NPO。「みんなのルールメイキング」では、2023年4月時点で全国218校をサポートしている。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。