【マンガ紹介】モブキャラなんてこの世に誰もいない『ぷらせぼくらぶ』

本などから学ぶ

2016/10/24

(C)奥田亜紀子/小学館

自分はクラスの「ランキング」の何番目だろう……? そんなことを考えたことはないだろうか。心の中でこっそりと、でもヒリヒリするほど切実に。

マンガ『ぷらせぼくらぶ』(奥田亜紀子/小学館)は、「自分が何者か?」という問いの入口に立ったばかりの中学生たちの多感な心情を描く。現在中学生の人は今の自分自身の、昔中学生だった人は「あの頃」の自分の肩をポンと叩いて励ましてあげたくなるような作品だ。

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自己評価が低い登場人物たち

この話の主人公は「岡ちゃん」。自分に対する評価が著しく低く、「箱があったならその中で眠ってしまいたい。そしてそのままそれを宇宙の片隅の誰も知らない場所にとばしてほしい」と密かに願っている女子中学生だ。

そんな岡ちゃんとつるんでいる女子中学生、クラスメイトの田山もまた、自分のことを教卓にひっそり飾られる花のように、変化があっても誰も気にとめてくれない存在なのではないかとどこか諦めて生きている。

でも、本当は岡ちゃんの「願い」も田山の「諦め」も100%の本心ではなくて希望や欲望の裏返しなのかも……!? 『ぷらせぼくらぶ』は思春期のヒリヒリするテーマを扱いながらも、岡ちゃんと田山のコントのような痛快なやりとりや、思わず「あるある」と頷いてしまう中学生のリアルな日常描写も相まって重苦しくならず、不思議なデトックス感を味わえる作品だ。

親友とのギクシャクが心にチクリ

ある日を境に岡ちゃんと田山の関係はギクシャクしはじめる。きっかけは田山にとっては「ささいなこと」。カラオケに岡ちゃんを誘わなかったこと。彼氏ができたことを岡ちゃんに打ち明けそびれたこと。どちらも悪気はなかった。でも岡ちゃんは裏切られたような、自分だけのけ者にされたような、惨めさを感じてしまう。

仲直りしたい気持ちと同居する「私をナメンな」という行き場のない苛立ち。一方で田山もそんな岡ちゃんの態度に戸惑いながら、「もうケンカすらできない」と悟ったようにつぶやく。

相手の気持ちも自分の気持ちもよくわからない。本音は怖い、嘘は嫌。自己嫌悪に浸って絶望した方がマシ。岡ちゃんと田山の、相手を想う気持ちを通じた自分を知るプロセスにはごまかしのないリアリティがあり、読者の心をチクリと刺す。果して2人は仲直りできるのだろうか……!?

不確かな世界と自分を受け入れる

作中では岡ちゃんと田山の他にも、岡ちゃんの言うところの「こっち側」の人たちにスポットライトが当てられる。ちなみに「あっち」側の人とは大学生と付き合っている「全てにおいて平均以上」の先輩や、いじめっ子なのに先生に「しょうがないやつだなあ」と見逃されているクラスメイトのことだ。

「こっち側」にいるのは、モテない、勉強ができない、友達がいない、「変な」人たち。「こっち側」の自分が人生の主人公で良いのだと思うには、何かが足りない。

たしかに、あの人はこうだ、自分はこうだと決めつけたり、「あっち側」と「こっち側」との間に線を引いたりしてしまった方が、気楽な時がある。

あるいはもっと切実に、そうとでも思わなければ「生き延びられない」日々もあるかもしれない。でもきっといつか不確かな世界と不確かな自分を受け入れ、愛せるようになる時がくる。

そしてそのきっかけは、意外にもあなたの身近なところにあるのかもしれない。岡ちゃんにとっての田山のように。

(岩崎由美/マンガナイト+ノオト)

<記事で紹介したマンガ>

『ぷらせぼくらぶ』(奥田亜紀子/小学館)全1巻(完結)

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※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2016年10月24日)に掲載されたものです。

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