【マンガ紹介】助けを求めることは「逃げ」じゃない 『EVIL HEART』

本などから学ぶ

2016/12/26

(c)武富智/集英社

マンガ『EVIL HEART』(武富智/集英社)は、心に深い傷を負い、恐怖と憎しみから「強くなりたい」と強烈に願う主人公が、合気道との出会いを通じて成長していく物語だ。

▼『EVIL HEART』(武富智/集英社)全6巻(1~3巻+気編・完結編上巻・完結編下巻)
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恐怖や憎しみはどこからくるのか? 何のために強くなるのか? 強くなるとはどういうことなのか?

主人公や彼を支える人たちの視点を通じて、人生の指針となるような問いかけに対する答えを、真摯に、謙虚に示してくれる。

圧倒的な恐怖や憎しみの中でも自分を保つには

主人公・梅夫(ウメ)は怒りのスイッチが入ると狂暴に豹変してしまうため、中学校で孤立していた。

ウメが「キレる」のには理由がある。兄の家庭内暴力からウメと姉の真知子を守るため、ウメの母が兄を刺してしまったのだ。

家族を守れなかった自責に苛まれるウメは、その悔しさ、恐怖、憎しみから、やられる前に徹底的に相手を力でねじ伏せることが、強くなるための唯一の方法だと考えてしまう。

そんなウメが出会ったのは合気道。ケンカに強くなるための武術を身に付けたい一心だったウメは、合気道を通じて、やがて力だけでは家族を守れないということを学んでいく。

ウメのような絶望的な状況に陥ったとき、あなたならどう考えるだろうか。圧倒的な恐怖と憎しみの中で自分を見失わずにいることは簡単なことではないはずだ。

強くなるために必要なのは力、心、そして…

イヤなことを考え続けるのは誰にとってもしんどい。ウメが自分を守るために「力」を妄信してしまったように、たとえひとりよがりな考え方であっても、自分で一旦の答えを出し考え続けるのをやめて、それを信じるしかない状況も時にはあるだろう。

ウメは合気道を通じて、自分の心と真正面から向き合うようになる。それは、考え続けるのをやめて逃げていた自分の弱いところ、カッコ悪いところを知ることでもあり、過去の自分が出した答えを疑うキツイ過程だ。

ウメはもう一度自分の心に向き合うことで、自分が力を欲する理由の奥に「家族を守りたい」という気持ちがあることに気付く。そして、そのためには力だけでは足りないということにも。

やさしい心があれば、本当なら闘う必要すらないということ。それでもいざという時に大切な人を守るための力も持っておきたいこと。力と心、そのどちらが欠けても強くなれないということをウメは学んでいく。

助けを求めるのが苦手なあなたへ

実は合気道には「試合」がない。

合気道は勝ち負けを決めるのではなく、相手に合わせることが求められる武術なのだ。自分の力と心を強くし、整え、そして「相手」との関係をも見つめて整地していくことが合気道の本質とも言える。

ウメにとっての「相手」、それは家族をはじめとする自分を支えてくれる周囲の人たちのことだ。そのことに気づいたウメは初めて助けを求める。そして、助けを求められた合気道の先生はこう答える。「強くなったね、ウメ…!」

誰かに助けを求めることは逃げなんかじゃない。助けを求めることは、自分の力と心、周囲の人間関係を見つめ続けた自分自身の強さの結果なのだ。

この記事を読んでいるあなたも、もし今誰かに助けを求めるのをためらっていいたら、どうか思い切って「助けて」と伝えてみてほしい。その一言があなたをもっともっと強くするはずだ。

(岩崎由美/マンガナイト+ノオト)

<記事で紹介した本>

▼『EVIL HEART』(武富智/集英社)全6巻(1~3巻+気編・完結編上巻・完結編下巻)

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※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2016年12月26日)に掲載されたものです。

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