戸籍のない子どもたちをどうすれば救えるのか。無戸籍者が辿る過酷な人生と法の不条理に言及したノンフィクション『無戸籍の日本人』
本などから学ぶ
2017/09/22
義務教育を受ける。携帯電話を契約する。運転免許を取得する。
こうしたことを「なんでもないこと、当たり前のこと」と思っていませんか?
しかし、この「当たり前のこと」ができない人たちがいます。
日本に1万人いるといわれている無戸籍者たち
何らかの理由で出生届が出されず、その存在が行政に把握されないまま「無戸籍」で生きている人たち。こうした無戸籍者は全国でどれくらいいるのでしょうか。
法務省の実態調査によると2015年11月時点で、680人となっています。一方、住民票を所轄する総務省が公表している「無戸籍のまま手続きによって住民票を交付されている数」は毎年500~700件。
また、最高裁が発表する司法統計では、法的父親と事実上の父親が違うために、一時的にでも「無戸籍状態」となる人が年間約3,000人いるとされています。調停・裁判をしたものの決着がつかず、不成立や取り下げをする人はこのうち年間約500人。
直近20年間で計算すると、1万人もの無戸籍者が日本にいると考えられます。
戸籍がなければ基本的に住民票が取得できません。健康保険証もないので、医療費はすべて自己負担となります。身分を証明するものが何もないため、銀行口座を作ることもできなければ、働く場所を自分で選ぶことすら難しいのです。
本書では、自分の子どもが「無戸籍児」になってしまった著者・井戸氏自身の体験と、6人の無戸籍者の過酷な生き様を交えながら、戸籍のない子どもたちが対峙するさまざまな問題について言及しています。
「戸籍のない子どもたち」はなぜ生まれるのか
「日本にいながら戸籍を持たない人」を作り出す要因はどこにあるのでしょうか。
井戸氏は、民法772条に定められた「婚姻成立の日から二百日後、又は、婚姻の解消若しくは取消の日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」という規定が主たる理由だと指摘しています。
例えば、離婚が成立し新しいパートナーとの間に子どもを授かったとします。その子が早産で、離婚後 265 日で生まれてしまった場合、出生届けは「前夫の子ども」として提出しなければ受理されず、無戸籍となります。井戸氏の場合もこのようなケースのひとつでした。
DVや複雑な家庭環境のため離婚できないまま、別のパートナーとの間の子どもを出産するケースも少なくありません。前夫の知るところとなることを恐れ、出生届を出したくても出せない母親もたくさんいます。こうして生まれた子どもが無戸籍児となってしまうのです。
「無戸籍」の連鎖を断ち切るために私たちにできること
「戸籍がない」ことによって、その子どもたちがどのような人生を送らなければならないのか、普通に戸籍を持って生きる人には想像することさえ困難です。
私たちにできることは、まず実情を知ること。無戸籍者たちがどのような日々を送っているのか、何に苦しんでいるのか、ぜひ本書を読んでみてください。
著者、井戸氏は「民法772条による無戸籍児家族の会」の代表として、法の挟間で苦しむ人たちの支援を行っています。しかし、携帯電話の契約ができない無戸籍者にとって、井戸氏が代表を務める「家族の会」のサイトを検索することすら難しいことでしょう。
『無戸籍の日本人』の巻末には無戸籍問題に強い専門家の連絡先一覧が載っています。本書を手にした読者の中で、周りに無戸籍問題で悩んでいる人がいたら、ぜひ専門家の連絡先を伝えてあげてください。
▼離婚後300日問題-民法772条による無戸籍児家族の会
https://ameblo.jp/family772/
▼離婚後300日問題‐民法772条による無戸籍児家族の会Facebookページ
https://www.facebook.com/family772/
▼離婚後300日問題 無料相談ホットライン(24時間受付)
03-6428-7028
(執筆:水本このむ 編集:田島里奈/ノオト)
<記事で紹介した本>
●『無戸籍の日本人』(井戸まさえ/集英社)
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2017年9月22日)に掲載されたものです。