人はなぜ食べるのか? 「食べる」の意味を考えるヒント本5選
本などから学ぶ
2019/07/17
食べること、生きることは切り離せない関係にあります。「食べるのが楽しい人」もいれば、「食べられれば何でもいい人」もいることでしょう。
今回は、「食べる」の意味を問い直すきっかけになる本を5冊ご紹介します。
『食べるとはどういうことか:世界の見方が変わる三つの質問』(藤原辰史/農山漁村文化協会)
8人の中高生と著者による、「食べる」がテーマの座談会をまとめた本作。「今までに食べた中で一番おいしかったものは?」といったシンプルな問いを皮切りに、「おいしさ」の定義や食べる行為の範囲、さらに人間が生きている意味など、哲学的な話題に発展していきます。
やさしい言葉を使う分、よりライブ感があります。例えば、「食べられる側の気持ちになってみる」という解説を読むと、本当に自分が調理され、人間の臓器を通って下水の旅に出るような不思議な感覚になることでしょう。
家畜や野菜を育てる人がいて、それらを流通させる人、店に並べる人がいます。誰が欠けても私たちの手元には食べ物が届きません。毎日食べられること、飢えを知らずに生きていることは、当たり前ではないと教えてくれる1冊です。
▼『食べるとはどういうことか:世界の見方が変わる三つの質問』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4540171097
『お弁当を作ったら』(竹下和男/共同通信社)
2001年に香川県のある小学校で始まったのが、献立決めも、買い出しも、調理も、弁当箱詰めも、片付けも、全部子どもがする「弁当の日」。弁当を作って持ってくるのは5年生と6年生だけ。その日は給食もストップします。
本書は、「弁当の日」の出来事をもとにした8編のショート・ストーリーが収録された、大人と子どもの成長物語です。
食べてもらえること、食べられることのうれしさに感動する絵美ちゃん。アジを開きながら「自分が生き物の命を奪っている経験」に驚くユースケ。これまでの学級経営に疑問を感じ始める先生たち。家族の絆や友情、先生との信頼関係を、弁当作りを通して描いています。
命と、食事を作ってくれた人への感謝。「いただきます」や「ごちそうさま」の意味を改めて感じさせてくれる作品です。
▼『お弁当を作ったら』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4764106612/
『いのちをいただく』(著・内田美智子、監修・佐藤剛史、原作・坂本義喜/西日本新聞社)
二十数年間、食肉加工センターで働く坂本さんの体験をもとに作られた一冊。
坂本さんの仕事は「牛を殺して肉にする」こと。大切な仕事と分かりながらも、殺される牛と目が合うたびに仕事が嫌になり、「いつか辞めよう」と思いながら働いています。
ある日、そんな坂本さんのもとに「みいちゃん」という名前の牛が運ばれてきます。みいちゃんをかわいがる女の子を見て、「みいちゃんを殺すことはできんけん、明日は仕事を休もうと思っとる」と息子の忍くんに話します。すると、忍くんは「心のなか人がしたら牛が苦しむけん。お父さんがしてやんなっせ」と言い、坂本さんは仕事に向かいます。みいちゃんはとても利口な牛で、解体の時も暴れませんでした。坂本さんはみいちゃんとの出会いにより、もう少しこの仕事を続けていこうと思うようになります。
スーパーですぐに買える食べ物ですが、その背景にはたくさんの物語があると気づかされます。「食べること」や「命に感謝すること」について考える機会をくれる1冊です。
▼『いのちをいただく』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4816707859/
『東京すみっこごはん』(成田名璃子/光文社文庫)
昔ながらの下町商店街、その片隅にひっそりと佇む木造一軒家が舞台の物語。「すみっこごはん」は、年代や性別もバラバラな人達が、一緒に食事をする一風変わった”共同台所”です。孤独を抱えた女子高生や結婚に焦るアラフォーOL、自分の居場所と人生を見失ったタイ人青年。「すみっこごはん」には、生きづらさを抱えながら、それでも懸命に暮らしている人たちが集まってきます。
本作のみどころの一つは「ごはん」。くじ引きで料理当番を決め、レシピノートから好きなメニューを選びます。その料理はどれも、素朴ながらも味わい豊かなものばかり。
「おいしい」は人を勇気づけたり、満足感を与えたりする大切な言葉だと、作品を通して伝わってきます。誰かが作ってくれたごはんはもちろん、自分が作ったごはんにも「おいしい」と声をかけてあげたくなりますよ。
▼『東京すみっこごはん』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334769500/
『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)
2LDKのアパートで同居する、弁護士・筧史郎(シロさん)と、美容師・矢吹賢二(ケンジ)。2人の食卓を通して、日常を描いた料理漫画。1日の終わりに、大切な人と食卓を囲んでその日の出来事を話す。その様子にほっこりします。
食材選びや調理の過程が丁寧に描かれ、読んでいると思わずごはんを作りたくなります。シロさんが「めんつゆ」や「だしの素」などを使っているのに、親近感を覚える読者も多そうです。
料理が苦手、食事作りが苦痛、食にあまりこだわらない人にこそ手に取ってほしい作品。手づくりごはんや誰かと一緒に食べることのあたたかさに気づくはず。
▼『きのう何食べた?(1)』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4063726487
「おいしい」と感じられる食事がある
最近では、食べることが「めんどくさい」という人も少なくないようです。
食事とは「何を」食べるかだけでなく、「誰と」「いつ」「どこで」「どんな状態で」食べるかも含めたもの。自分は、どんな食事のときに「おいしい」「楽しい」と感じるのか。「食べること」に向き合うきっかけにしてみてくださいね。
(企画・選書・執筆:水本このむ 編集:鬼頭佳代/ノオト)
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年7月17日)に掲載されたものです。