【マンガ紹介】引きこもりの家族とどう向き合う? 『ふつつか者の兄ですが』

本などから学ぶ

2016/09/12

もし家族が自室に引きこもってしまったら、あなたはどうするだろうか。部屋から出るように積極的に働きかける? その家族の存在を隠す?

マンガ『ふつつか者の兄ですが』(日暮キノコ/講談社)は、突然部屋から出てきた元引きこもりの兄とその妹の物語。家族との向き合い方のヒントが詰まった作品だ。

▼『ふつつか者の兄ですが』(日暮キノコ/講談社)既刊3巻(未完)
http://www.amazon.co.jp/dp/B01562T3TK

引きこもりの兄の存在は絶対に秘密

女子高生の志乃の兄、保(たもつ)は引きこもり状態。志乃は「自分はひとりっ子だ」と友人たちに嘘をつき、保の存在を隠してきた。

しかし、ある日突然保が部屋から出てくる。「引きこもりの兄」なんていない、“もっと輝く”毎日を望む志乃は激しく動揺する一方で、保はそんな志乃の気も知らずおずおずと家事を手伝い始める。

引きこもる前に自暴自棄で暴れていた保の様子は一変、ピュアで傷つきやすい子どものようになっていた。そんな保を志乃はどうやって受け入れ、どう向き合っていくか。重くなりがちなテーマが恋愛や笑いを交えてポップに描かれる。保のモデルとなった元引きこもりの兄を持つ著者が描く異色のコメディだ。

家族を未知な存在として受け入れる

引きこもる前とは別人のようになってしまい、予測のつかない行動に出る保に志乃は苛立ちを隠せない。一方、保は志乃の高校の運動会を見に行き、そこで家では見たことのない志乃の輝く姿を見てショックを受ける。

引きこもりの期間中、接点の無かった兄妹にとって、お互いは未知の存在とも言える。家族を未知の存在と言い切ってしまうのは勇気が要ることかもしれない。しかし、たとえ毎日顔を合わせ、会話を交わす家族であっても、相手のことをすべて知っているわけではないはずだ。

相手を未知な存在だと認めた上で、「過去の姿や「こうあるべきという姿」に惑わされず、「今の」「目の前の」相手を知ろうとすること。それが、家族関係を再び築くための第一歩になるのかもしれない。

家族だから難しいし面白い

家族とは血縁によって、また一緒に生活する中で互いに影響しあうことによって、「似た」者となる存在だ。志乃と保は一見、正反対の性格に見えるが実は似ているところもたくさんある。

志乃が友人に嘘をついてきたことを後悔し悩む姿や、片思いの相手と一緒に運動会でペアダンスができることになり喜びを爆発させる姿は、繊細でまっすぐな保の姿に重なる。このようにお互い似ているから「分かる」ことがある一方で、家族は他人でもあり、理解し合えないこともたくさんある。そこが家族の難しいところだ。しかし、だからこそ面白さがある。

家族と向き合うことは自分と向き合い、自分を知ることだ。人生に迷う時こそ、家族という鏡を覗いてみてはどうだろうか。

人生につまづいた家族とどう向きあっていくか。答えの無い難しい問題だが、志乃が少しずつ「今の」保と関わり知っていったように、目の前の問題をひとつひとつ、時には一緒になって解決していくという方法は有効な一手となるだろう。家族と向き合う中で自分自身が成長し、自分の人生を豊かにしていくこともできるはずだ。

(岩崎由美/マンガナイト+ノオト)

<記事で紹介したマンガ>

『ふつつか者の兄ですが』(日暮キノコ/講談社)既刊3巻(未完)

http://www.amazon.co.jp/dp/B01562T3TK

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2016年9月12日)に掲載されたものです。

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