
さまざまなシーンで活躍する大人たちに、過去の失敗談を伺うこの連載。今回は、2012年からYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開始し、授業動画の配信で多くの中高生たちから支持されている葉一(はいち)さんの登場です。
わかりやすい解説と豊富なコンテンツで人気を集める葉一さんですが、YouTuberとして活躍する前には、会社員として営業の仕事をしていた時期もあったそうです。
学生時代、社会人時代、そしてYouTubeを始めてからの葉一さんの失敗談とは? そして、そこから中・高生のみなさんに伝えたいこととは?
学習効果を出すために、睡眠は必須!
—— 葉一さんは、子どもの頃から教育の世界に興味があったのでしょうか?
教育に興味を持ち始めたのは高校生になってからでした。中学時代は学校の先生が大嫌いだったんです。当時の僕は太っていて、学校でいじめに遭っていました。その時期に、とある先生がクラスメイトたちの前で僕の体型をイジって笑いのネタにしたんです。それがすごくショックでしたし、人として最低だなと思いましたね。そんな出来事もあり、当時は教育関係の仕事をするイメージはありませんでした。興味を持ち始めたのは高校の先生との出会いがきっかけでした。
—— 高校に入って、よい先生に巡り会えたのですね。
学校の先生を信用していなかったので、高校に入ってからも先生たちに対してかなり斜に構えていたと思います。でも、その先生は、生徒と対等な立場でコミュニケーションをとってくれたんです。人を貶(おとし)めるようなこともしないし、自分たちのことを想ってくれていることが会話の節々から伝わってくる。なので、何か大きな出来事があったわけではないのですが、徐々にその先生に対して信頼感を抱くようになりました。
—— それで、教育に興味を持つようになったのですね。
そうですね。それまでは音楽に興味があって、将来的に音楽業界に関われたらと思い専門学校を目指していたんです。でも、その先生に出会って、教師になりたいと考えるようになりました。
—— 進学先の大学はどのように決めたのですか?
僕の家庭は経済的に余裕がなかったので、自宅から通える国公立の大学から選ぶことになりました。妹に障害があり、母が中心となって世話をしていたのですが、その母の精神面を支えるためにも、家から離れる選択肢はありませんでした。それで、東京学芸大学を目指すことにしました。
—— ご実家は東京ですか?
いえ、当時は群馬県に住んでいて、そこから3時間くらいかけて通いましたよ(笑)。
—— それは大変でしたね! でも、3時間かけても通いたい大学だったのですね。
そうですね。高校2年生の秋頃に学芸大を目指し始めた時点では、偏差値が20くらい足りなかったんです。でも、経済的に塾に通う余裕はないし、塾に通いたいという気持ちも特にわかず、自力で勉強を進めていきました。
—— 塾に頼らずに学力を大幅に上げていくのは難しそうですが……。
先生に「学校で配られた教材の問題をしっかり解いていれば大丈夫」と言われていたので、学校の教材をやり込みました。高校受験のときには、親に問題集を買ってもらって、最後まで解ききらずに次の問題集に移る……という方法で、中途半端のまま終わっている問題集がたまっていく状態だったんです。やりきったという感覚がなく、学力も中途半端になってしまったんですね。それで、大学受験では学校の教材をとことんやり切る方法にしました。
—— あれもこれもと問題集に手をつけて、結局中途半端になってしまう中・高生は多いと思います。学校の教材だけで、うまくいきましたか?
最初は「とにかくやらなきゃ」と、空いた時間をすべて勉強につぎ込み、睡眠時間も削っていたんです。ところがあまり伸びなくて。そこで、結果の出ているクラスメイトにどう勉強しているのか聞いてみたら、睡眠や食事は大事だとアドバイスをもらったんです。それ以降は毎日6〜7時間は睡眠をとるようにして、時間の管理を意識するようにしたら少しずつ結果が出てきましたね。
—— 学習効率を上げるために、睡眠はやはり重要ですよね。
そうですね。睡眠中に記憶の整理が行われているともいいますし、何より睡眠をしっかりとることで、起きている時間の勉強パフォーマンスは良くなっていきますから、睡眠は大事にしてほしいです。
—— 長時間勉強すればいいというものではなく、効果を出せるように心身を整えることも大切ですね。

オフがあるからこそ、オンで成果が出せる
—— 進学した東京学芸大学では、教員免許の取得を目指したのですか。
はい。ただ、教育実習で教員という仕事の忙しさを目の当たりにして、少し考えが変わりました。僕が目指していたのは、わかりやすい授業をするというのはもちろんですが、授業以外の部分で子どもたちのメンタルを支えられる先生だったんです。ですが、この多忙さの中で生徒一人一人をきちんと見られるのだろうかと……。実習のときには「4〜5年経てば余裕も出てくるよ」と言われたのですが、あまり腑に落ちなくて、違う道を考えるようになりました。
—— 教員の働き方については、ずっと問題になっていますね。
多忙さがなかなか改善されず、先生が疲弊している状況はまだ多くあると思います。もっと学校の先生が個を出しやすい状況になればいいなと思います。
—— それで、卒業後の進路としては教員以外の道を考えたのですね。
自分が目指す教師像に近づくには、もっと社会を知る必要があると思っていました。それで、在学中にNPOに参加したり、起業家の方に話を聞いたりしたんです。その中で、社会にはすごい人がたくさんいると気づき、教員になる前に一度、一般企業で修業をする必要があるなと思いました。結果、教員採用試験は受けずに就職する道を選びました。
—— どんなお仕事をされたのですか?
せっかく経験するなら厳しい仕事がいいと思い、いろいろな方に相談したところ「営業職で修業してこい」というアドバイスが多かったんです。そこで、教材販売会社で営業をしてみることになりました。
—— やはり、厳しかったのでしょうか。
家を一軒一軒回る営業だったのですが、うまくいかないことだらけでしたね。全然売れないんです。仕事は月曜と火曜が休みだったのですが、休みの日も返上で仕事をしていました。そんなある日、月曜に会社のレクリエーションが予定されたんです。でも僕はそんなのに出ている場合ではないので、「営業に行ってきます」と断りました。すると「だから売れないんだよ!」と上司に叱られてしまったんです。オン・オフの切り替えができないからうまくいかないんだ、と。
—— その指摘は、学生時代に睡眠時間を削って勉強してもうまくいかなかったというお話と共通していますね。
そうなんです、同じですよね。僕は少し完璧主義なところがあって、何でもやりすぎてしまうんです。上司には、オン・オフの切り替えができないと、ここぞというときにオンになることができずに中途半端になってしまうと言われました。その後、休むときは休むとメリハリをつけるようにしたところ、ちゃんと売れるようになっていきましたね。
—— 頑張っているのにうまく結果が出ないという人は、オフをきちんととれているか見直してみるとよさそうですね。
チャンネル開設当初は批判にさらされたことも
—— 会社員経験を経て、どのようなきっかけでYouTube配信を始めることになったのでしょう。
営業の仕事は、体調を崩して退職しました。その後アルバイトで食いつないで、減っていく銀行口座の残高を眺めながら過ごす日々だったのですが、知り合いの紹介で塾講師の仕事をすることになりました。そこでは結果を出すことができ、責任のある立場を任せていただくこともできました。ただ、経済的な問題で塾に通えない子たちもいるということが気になり、何かできないかと考えるようになったんです。ただ、塾では立場が上がるほど忙しくなっていき、多忙な中でその答えを出すのは難しいと感じました。それで塾も退職したんです。
—— 塾に通えない子どもたちのことは、どうして気になるようになったのですか?
生徒や保護者と面談をしていると、毎月の月謝は払えるけれど冬期講習や夏期講習などのまとまったお金は捻出できないという家庭が多かったんです。また、塾に行きたいと子どもの友達が言っているけれどお金がないので諦めているという話もよく耳にしました。上司は「そういう家庭があるのはしかたない」と言っていたのですが、「これは仕方ないで済ませていいことなのか?」と思っていましたね。
—— それでYouTubeでの授業動画配信を始めたんですね。
塾を退職して少し経った頃に始めました。ある日、自分がYouTubeを見ていたときに、「YouTubeならアカウントを持っていない子も、ネットさえつながれば見られる」と気付いたんです。ただ、始めた当初はなかなか閲覧数が伸びず、叩かれることもありました。13年前の当時は、まだYouTubeには無断転載の動画も多く、そんなところに教育を持って行ってもいいのか、教育を汚す気か、というお叱りが多かったんです。
—— ちょうどYouTubeがはやり始めた頃は、いぶかしく思っている大人も多かったですよね。
ただ、ひとまず授業動画の本数を増やして、しっかり教科書を網羅しようとひたすら続けました。叩いているのは大人ですが、動画を届けたい相手は子どもたちです。いいものであれば、子どもたちが自然に広めてくれるだろうと信じて撮影していましたね。
—— 諦めずに続けてきたことが、今につながりましたね。最近では批判的な声はなくなっていますか?
始めた頃よりは減りましたが、いまだにありますよ。ですが、活動当初から「一人でも誰かの力になれているのであれば、この活動に意味はある」と思って続けているので、そこは仕方ないと割り切っています。

人と違う道でも、進み続けて正解にしていこう
—— 葉一さんの動画は、塾に通えない生徒だけでなく、不登校や病気などで学校の授業が受けられない生徒にも、貴重なコンテンツだと思います。
学校に行かないという選択肢をとっている子や保護者の方は、勉強の遅れが気になってしまうと思うのですが、家でこの動画を見て勉強すれば大丈夫だよという安心感につながればと思って撮影をしてきました。動画を利用した勉強で結果を出してきた子もたくさんいるので、あまり不安になり過ぎずに自分のペースで利用してもらえたらうれしいですね。
—— 教育系YouTuberとして、今後挑戦してみたいことはありますか?
現役の先生方に、自分のチャンネルに登場していただいて、対談のような形で熱い思いをYouTubeから発信していければと考えています。学校や先生が嫌いな子にも、こんな素敵な先生もいるんだと知ってもらえたらいいなと。それから、東京ドームで教育のイベントを開催したいです。東京ドームで自習できるスペースをつくって、子どもたちが勉強したり、社会人が仕事をしに来たり。「東京ドームで勉強してきたよ!」って、すごい経験になると思いませんか?
—— 東京ドームなら、勉強しに行くのもワクワクしそうですね。最後に、中・高生のみなさんにメッセージをいただけますか。
日本では、多くの人が選択していない道を選んだ人に対して、風当たりが強いことがよくありますよね。不登校に対してもそうですし、僕がYouTubeを始めたときもそうでした。多くの人が選ぶ道を外れた人を、叩く風潮があります。でも、何が正解かはやり続けてみないとわかりません。「正解の道を選ぶのではなく、選んだ道を正解にする」。これは僕が大切にしている言葉です。大変なこともあると思いますが、みなさんも自分が選んだ道を正解にするために進んでいってください。その先に、きっとみなさんの笑顔の瞬間が待っています。
—— ありがとうございました。
取材協力

葉一さん
1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程数学選修。大学卒業後は教材の営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」(https://www.youtube.com/@toaruotoko)を開設。 著書に『塾へ行かなくても成績が超アップ!自宅学習の強化書』(フォレスト出版)、『小学校6年間の算数をイチからやさしくていねいに』(KADOKAWA)など。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。
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