「ときめきのあふれる世界」を! 高校生起業家・山本愛優美さんの目指すもの
先輩に聞く
2018/11/15
中学2年で「起業」の存在を身近で感じ、高校2年でNEXSTARの代表兼CEOとなった山本愛優美さん。
現在高校3年生の彼女は、北海道帯広市在住の女子高生起業家として、地元でも注目を集めています。
起業を目指すこととなったきっかけ、実際に仕事をすることで気づいたこと、そして、これからの展望などを、プレゼンイベント「TEDxSapporo」にスピーカーとして立つ大舞台を控えた前日に伺いました。
マンガ『銀の匙』の主人公ができるなら
――山本さんはいつ起業をしたいと思ったのですか?
「起業」という概念を知ったのは中学2年の時です。スイスで日本料理店を経営している親戚のおじさんが帰国して、話を聞いていたら、思いもよらない視野の広がりを感じました。
それまで、私は保育士になりたいと考えていたのですが、「起業も面白そう」と。その後、中学3年の4月に「自分で起業したい!」と実際に考え始めました。
――それはどんなきっかけで?
帯広市を舞台にしたマンガ『銀の匙』に、主人公の高校生・八軒勇吾は先輩と一緒に起業をするエピソードがあるんです。マンガの中とはいえ、私の住む街で高校生が自分のやりたいことを起業しようとしている。それを読んで、「私も、この地元で同じことができるんじゃないか」と思ったんです。
そう決めてから、まずは情報収集をしました。そんな時、図書館で「とかち・イノベーション・プログラム」という十勝で起業を目指す人材育成プログラムの第一期募集のチラシをたまたま見つけたんです。募集要項に「学生可」と書いてあったので、「中学生も学生だろう!」と思い応募してみました(笑)。そうしたら、参加できることになったんです。
中学3年の7月から、約半年かけてプログラムに沿って、起業アイデアを考えました。この時は、企業に職業体験プログラムを提案する事業を考えていたのですが、一緒にやってくれる企業さんを見つけるのが難しいなど課題が多い。そこで、いったん取りやめ、いま自分ができることを考え始めました。
――その後、何を始めたのでしょうか。
地元中高生の学生団体TK(とかち高校生)部をつくりました。まずは、いろいろなアイデアを実行するための仲間を増やそうと思ったんですね。自分たちの住む十勝を知り、十勝のこれからを考えるためのイベント「TKTK」の開催など、中高生で十勝を盛り上げていく活動を経て、高校2年の7月にNEXSTAR(ネクスタ―)を開業しました。
「高校生起業家」は、もうダサい?
――実際に、起業してみてどうでしたか?
起業自体は、税務署に開業届を出しに行って、「ハイ! 開業!」みたいな感じで。5秒で終わったので、実感はなかったんですけど(笑)。
でもその後、十勝毎日新聞さんに大きく取り上げていただいたら、すごく大きな反響をいただいたんです。それで、等身大の実力よりもすごそうに見えちゃったような……。
――開業当初はどんなふうにお仕事をしていたのですか?
企業に、中高生向けマーケティング企画の提案をしていました。電話でアポイントメントをとって、企画のプレゼンに行く。何社かには話を聞いてもらえたのですが、「社内で検討します」で終わってしまって。これは失敗したなと思ったんです。
――どういうところがですか?
自分では、「中高生向けの市場という新しいニーズ」をつくり出そうと考えていたのです。しかし結局、企業さんが今求めているものと私からの提案が合致しないと、お仕事として成立はしないと気づきました。
そこで、2018年の2月からは中高生と企業向けのコンサルティング業務を始めました。「何かを企画したいけれど、どうしたらいいのかわからない」といった中高生の相談にのり、企業さんに対しては中高生向けのマーケティングや私の立場だからこそできるコンサルティングを行っています。
クライアントが望むパターンで対応をすること、そして企業さんが、「私という存在を使ってやってみたいこと」をお受けすることで、最初の頃のような営業はせずとも、お仕事をいただいています。
今後は営業する以前に興味をもってもらえるよう、実績も含めて自分の存在自体の価値を上げていきたいと思っています。
――存在自体の価値を上げるとはどういうことでしょうか?
「高校生起業家」ではなく、「山本愛優美」という肩書で生きていけるようになりたいです。最初は、高校生起業家になれたこと自体がとてもうれしかったんです。やっぱり憧れだったので。
でも最近、同年代で活動している人たちの間で「高校生起業家の肩書はダサい!」という声も多いんです。ただ高校生の時に起業しただけで、独自のプロダクトも事業も作っていないのに、と。
あまりこだわらなくてもいいのではないかとも思うのですが、確かに自分自身としても、起業しただけで、自分で「これこそは!」と思える実績も出していないのに、肩書だけが目立っているのはいや。なので、自分が生み出した何かを前面に押し出していけるようになりたいです。
美女になろう計画のコンテンツとしての可能性
――自身の存在価値をあげるために具体的にどういった活動をしていますか?
自分ができることの中で、何がお金に換えられるのかを実験しています。例えば、地元の商店街で踊ったり、弾き語りをしたり。
また、自分自身を表現する力をもっとつけたくて、デザインスキルを磨いたり、自分の置かれた環境で社会に注目されそうなことは何だろうと考えたりしています。
あと、大きいのは「美女になろう計画」っていうのがあります!
――美女!?
はい。美女になるためのインスタグラムっていうのを開設しまして。最初の投稿に、見た目も中身も総合的な美女になろうという計画で、具体的に実行することと、スケジュールを組んだ「美女企画書」をあげています。今は、見た目強化期間、次は教養強化期間です(笑)。
私が「美女になりたい」って発信し始めたら、面白いことが起きたんです。まず、「私も実は美女になりたかったの」という女の子が出てきた。そして、今までクラスでしたことがなかった美容の話をみんながするようになって、情報がびっくりするくらい集まってきたんですよね。自分が動くと、周りも動いていくのを肌で実感しました。
私はおしゃれなことを発信しているインフルエンサーではない。でも、逆に身近だから強い影響を与えられているのかもしれません。
そして今、美しくなりたい高校生のためのイベントをやろうという声があって、将来的に仕事になる可能性が見えてきたんです。だから、自分の好きなこと、やりたいことをコンテンツ化して発信するのってすごく大事なんだなと。
目指すのは「ときめきのあふれる世界」
「美女になろう計画」を始めてから、もう一つ感じたことがあります。
自分が美女を目指している姿を見せることは、誰かの行動を後押しできているのではないかということです。「一緒にやろう」と声をかけて始めたわけではありません。でも、周りの女の子と「美女になりたい!」とお互い高め合えたり、「愛優美が美女になろうと行動しているんだったら、オレもこれにチャレンジしてみよう」と言ってくれたり。
そういう教育的ないい影響を与えられているのではないかと思ったんです。これから私がやりたいことに、「教育」は大きく関わってくるので、この気づきは重要でした。
――やりたいこととは?
「ときめきのあふれる世界」をつくりたいと思っています。
それぞれが、直観的に「好きだ!」「いいな!」と感じるものとたくさん出合って、長期的に追いかけ続けていくこと。その両方が同時に進んでいくことが、世界にときめきがあふれている状態ではないかと思うんです。
そして、個々がその「好き」を社会的貢献に置き換えられるスキルがあれば、「好き」を追いかけていける仕組みになる。それで、「ときめきのあふれる世界」ができるのではないかな、と。
それでその鍵となるのが、人材育成とコミュニティ形成だと思っています。大学では、そこに一番関わる教育を勉強したいです。
――大学で勉強しながら、いろいろ展開していくんですね。
はい。まずは大学で、数学的・哲学的な面から「ときめき」を考えていこうと思っています。
たとえば、「ときめき」というあいまいな概念を指標化できたらいいなと。すでにエンターテインメント業界では、喜怒哀楽といった感情の指標化というのをやっているので、それを活かせないだろうかと思っています。ほかにも、中高生に向けた教育カリキュラム開発・探求もやってみたいですね。
教育は公的な領域なので、それに私の事業のエンターテインメントな部分を掛け合わせて「ときめきのあふれる世界」をつくっていきたいです。
――最後に山本さんを突き動かすものって何ですか?
やっぱり「ときめき」だな。自分が直観的にいいなと思ったものに対しては、すぐに動いてみる。動いているうちに、ふっと論理的な理由が見えてくるんです。そのために、まずは「ときめき」に従って動いてみる。
でも、動けないときでも、否定的な感情を持たないようにする。たとえば、人に会いたくない時もありますよ。そんな時も「ああ、私、人と会ってないダメだー」じゃなくて、「このダラダラしてる時間、超楽しい!」みたいに、その時間を楽しめるようになれたらいいと思います。
それと、動けなくなる要因って何かしらの失敗体験にあることが多いと思うんです。学校の中でやりたいことがあって、チャレンジしてみたけど、すごく否定されて嫌になってしまったとか。そういう時には、うまく別のコミュニティに入っていけるかどうかが大事だと思うんです。だから、いろんなチャレンジの場所があるよ、ともっと伝えていきたい。私自身も、そんなコミュニティをつくっていきたいと思っています。
TEDxSapporoの舞台に立って
取材後、「いつかTEDxSapporoの舞台に立ちたいと思っていたんです!」と、にこやかにリハーサルに向かった山本さん。本番後、こんな感想を送ってくれました。
「私にとって、TEDの舞台に立つことはすごく憧れでした。まるで違う人になったみたいに人生の可能性が爆発的に広がると思っていました。でも、終わって1週間。私は私で変わらなくて、不思議なほど普段の生活でもあのステージでも同じ感覚なんです。
それはつまり形は違うだけで一瞬一瞬に全力で過ごしていることに変わりないんだな、と。TEDを通して、それに気がつけたんです! なので、より一層今を大切に生きようと思えました!」
後輩たちにも「ときめき」を追いかける楽しさを伝えようと、一瞬一瞬を「ときめき」に従って行動する山本さん。そんな彼女から、今後も目が離せません。
(取材・執筆:わたなべひろみ 編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材先
山本愛優美さん
2001年2月23日生まれ。北海道帯広市出身・在住。とかち・イノベーション・プログラム第一期参加、学生団体の立ち上げを経て、2017年7月にNexstar (ネクスター) 開業。ジモト×TEENの活動を展開中。2018年10月TEDxSapporo2018にスピーカーとして登壇。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年11月15日)に掲載されたものです。