地方公務員の面白さって? 大好きな地元で働く公務員・石塚清香さんに聞きました
先輩に聞く
2019/11/13
「特にやりたいことはないけど、公務員は安定しているって聞くし、まぁ良いかも」「公務員って何をしているのかよく分からない。そもそも面白いのかな?」
そんな疑問に答えてくれるのは、現役公務員として首都圏の某地方自治体に勤務する石塚清香(いしづか・さやか)さん。高校卒業後、公務員として採用されてから現在までに、子育て×ITプロジェクトの立ち上げや地域住民と連携したイベント運営など、さまざまなお仕事をしてきました。
今回はそんな石塚さんに公務員のお仕事の面白さや大変さ、楽しさを伺いました。合わせて、石塚さんと交流のある日本全国の公務員仲間約60名のアンケート結果もご紹介します。
企画、提案にPR活動。地域のために走り回る公務員
――まず、石塚さんが今どのようなお仕事をしているか教えてください。
地域課題解決につながる行政サービスを検討する際に、ITやテクノロジー活用のアドバイスやサポートをする仕事に携わっています。事業の企画や関係者への提案に向けた話し合いを進めたり、事業内容のマーケティングに奔走(ほんそう)したり。時には地域の人と連携して住民向けイベントを企画・PRをしたり、街へ飛び出して地域の人から意見や要望をヒアリングしたりもします。
――かなり多彩な仕事なんですね! 正直、「公務員って朝9時から夕方5時まで、働いてれば良い仕事だから楽そう」と誤解していました……。
きっと中高生の皆さんが想像する公務員の仕事って「住民票の発行」「引越しの転居手続き」などの窓口業務が多いと思うんですけど、普通は17時で閉まってしまうので、その裏側でやっている仕事などを目にする機会はないですからね。もちろんそれらも住民生活を支える上で重要ですが、実は公務員の仕事はものすごく多彩なんです。
公務員の本質的な仕事は、住民の皆さんからは見えないところで、「地域をよりよくする方法を考えること」です。そのために、多くの公務員が住民の皆さんの暮らしの質が向上したり、より安全安心になったりするような事業企画や条例改正案の検討などを行っています。また、それらの事業が成功するためのさまざまな調整、メディアや住民へのPR活動やマーケティングなどを担う部署もあります。
「まちづくり」「安定」「地域が好き」――公務員になる理由は十人十色
――公務員にはどうやったらなれますか?
都道府県庁や市町村で働く地方公務員の場合は、自治体ごとで行われている試験に合格することです。高卒レベルの初級公務員試験は毎年9月に実施されます。私は高校卒業後すぐに就職したため、高校3年生の時に試験を受けました。
――石塚さんはなぜ公務員になったのですか?
「大好きな地元のために働きたい。この地域の魅力をとにかく伝えたいし、ここに住む人たちが幸せになれるようなことに貢献したい」と思ったからです。それに、父親も公務員として働いており、身近な職業だったのも理由の一つです。私は生まれ育った地域の公務員になりましたが、出身地以外で地方公務員として就職する人もいます。私と同じ職場には、この地域が好きで九州から就職した人もいるぐらいです。
――ほかには、どんな理由で公務員になる人が多いのですか?
人それぞれですが、全国の公務員仲間のアンケート回答を見ると「公務員の信頼感」「労働環境の安定」「まちづくりへの貢献」などが多いようです。なかには、「友達が願書を持ってきたから」「祖父が公務員だった」などの理由を挙げている人もいました。公務員になろうとする理由は人によってさまざまですね。
Q.どうして公務員になったの?
(石塚さん実施のアンケートより抜粋)
A.
・地域に入るにあたり、「学生」という肩書の次に信用される肩書なので
・安定しているし、安心できそう。親も喜ぶ
・早く帰れそうだから
・当時、田舎で女子が結婚しても続けられる仕事は教師か公務員だったから
・(勤務時間が)9時〜17時で土日休みなら、好きな書き物ができると思ったから
・営利目的ではなく、公共の福祉のために働けると思ったから
・地域づくりがしたかった
・長期的に社会の課題解決に貢献できるから
良い事例は共有――みんなで地域を高め合う公務員の文化
――石塚さんは、どんなところが公務員の仕事の面白さだと思いますか?
地域を良くするために、さまざまな人と仕事ができることです。「公務員」という肩書きに信頼を寄せてくれる方は多いので、それによって住民の方々と話す貴重な機会が得られる。それをきっかけに、いま地域が抱えている問題を知れたり、協力して課題解決に向かえたりします。少し言い過ぎかもしれないですが、公務員は「信頼しかない仕事」だと思っているんです。公務員から信頼を取っちゃうと、何も残りません。だからこそ、期待を寄せてくれる住民の方々を裏切らないよう、信頼の積み重ねを意識した行動を心がけています。
――ほかにはありますか?
地域に関係なく、学び合いの文化があるところかな。たとえば、自分たちの地域でうまくいった事例を他都市の自治体職員に共有すると「その方法は良いですね! うちの地域でも取り入れられないか検討してみます」のような話にしばしばなるんです。数週間後、その人が所属する地域のシステムをのぞいてみると、「私たちが共有した事例と同じやり方が取り入れられていた!」なんてこともあります。
――それは面白いですね! ちなみに「真似された!」とはならないんですか?
むしろ「ほかの自治体にお手本にしてもらえるような良い方法だったんだ」と考えますね。これは、誰しもが「地域のために」という思いで行動し、かつ利益を追求する機関ではないからこそできるんだと思います。
他の人からは「街づくりに参加できる」「色々な人や企業と仕事に取り組める」「住民とダイレクトに関われる」などが公務員の面白さとして出てきました。
Q.公務員の面白さってどんなところ?
(石塚さん実施のアンケートより抜粋)
A.
・住民とまちをつくりあげる喜び
・地域住民と対話できるところ
・「ありがとう」と言われて、お金がもらえる
・さまざまな仕事ができて、いろいろな人と出会えること
・誰かのために役立てることをしたいという気持ちが持てるところ
・利潤にとらわれずに世の中の役に立てるところ
・どんな部署でも、住民の生活、まちづくりにつながっていくこと。特に、地方自治体はいろんな分野を経験できる
・いま、社会で問題になっているいろんなテーマに取り組める
・クビにならないからやりたいようにやれるところ
・どんな世の中にしたいか、住民と一緒に夢を設計できるところ
平等・公平、予算確保……。仕事に歯がゆさも感じる日々
――では逆に、公務員の難しさはどんなところだと思いますか?
「常に平等・公平を考えた判断をすること」「予算の確保」「数年単位で変化する労働環境」の3つだと思います。
公務員は「公共の福祉の向上」が最大目的で、民間企業のように特定の利益のために仕事をしているわけではありません。なので、地域のために目の前にある資源や労力の平等・公平な分配を常に考えています。
ただ、予算や人材、時間の問題で、全てを平等・公平にできない場合もあるんです。たとえば、窓口業務。1人のお困りごとに全力で対応していると、ある別の方からは「なぜあの人だけ、熱心に対応するの?」とお言葉をいただく場合もあると思います。
人材や時間が限られているからこそ、そして多くの住民の方に注目いただいているからこそ、「どうすれば住民の皆さんのためになるのか?」にいつも悩みますし、時には苦しい判断を迫られるケースもあります。
――2つ目の難しさとして挙げられた「予算の確保」について教えてください。
私たちが使う予算は「議会」に承認されて初めて得られます。つまり、自分たちが何か事業を始めたいからといって、すぐにお金を使えるわけではないですし、説明責任も求められます。
なので、スピード感を持って動いたほうが地域のためになるなと思っていても、承認を得るまでの工程がいくつも必要になるので、そこに歯がゆさを感じるときはありますね。
――3つに挙げられた難しさが「数年単位で変化する労働環境」。意外だったのですが、公務員は労働環境がそんなに変わるものなんですか?
一般的に行政職の公務員は2〜3年で部署異動があるため、特定の仕事を長期間続けるのはなかなか難しいんです。また、必ずしも、希望の部署に配属されるわけではありません。
この部署異動が、まるで転職したような感覚なのです。たとえば、税金の部署から福祉の部署へ移ったら、制度やルールを覚えるところから始まります。もちろん業務も並行して行うため、異動したばかりのころは特に大変です。
Q.公務員の難しさってどんなところ?
(石塚さん実施のアンケートより抜粋)
A.
・どうすれば公平なのか、そもそも公平にすべきことなのか、いつも悩みます
・公平性の追求が時としてサービスの足かせになること
・計画や予算の枠組みがあるので、思いついたらすぐ実行、というわけにもなかなかいかないところ
・予算が議会で議決されて初めて仕事ができるので、やりたいこと、正しいことが必ずしもできるとは限らないところ
・行政職であれば多様な部署への異動があり、必要な法規則を勉強する必要があること
・定期的な異動により専門性を磨きづらいこと
公務員は自分のやりたいことを叶える手段の一つ
――最後に、公務員に興味がある中高生へアドバイスをお願いします。
これからの時代、「安定=リスク」になる可能性があると思います。今後、公務員の仕事の多くはおそらくITに移行し、減っていくでしょう。
もし公務員のしごとに興味があるならば、漠然とでもいいから「どんな社会を作りたいのか?」「地域でどんなことをしたいか?」を一度考えてみてほしいんです。公務員は「地域社会」を良くすることが仕事。公共の利を追求するためにどんなことができるかを、私たちも常に考えています。
だから、「公務員になることがゴール」ではなく、「公務員を自分がやってみたいことを叶えるためのツール」と考えるぐらいがちょうど良いと思います。
いま、公務員が定員割れをし、人材不足に悩まされている地域もあるんです。だからこそ私たち現役公務員は、「公務員=夢のない職業」というイメージを変え、この仕事をより魅力的に感じてもらえるようにしていきたいと思います。
(取材・執筆:スギモトアイ 編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材協力
石塚 清香さん
地方公務員。高校卒業後、首都圏某自治体の地方公務員として働き始める。現在はICT専任職として勤務し、経済振興などに携わる。これまで子育て×ITに関するプロジェクトを始め、地域住民と連携したイベント運営など、内外の様々な人々と仕事に取り組む。プライベートでは公務員向け勉強会やイベントも積極的に主催・参加し、日本全国の公務員との交流を深める。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年11月13日)に掲載されたものです。