やりたいことがわからない 元不登校の僕が気付いた、人生を好転させる極意

先輩に聞く

2016/12/01

「高校選びやその後の進路、今の職業について執筆してもらえますか?」

こんなお題をいただいたのが2週間前。それから何を書こうか考えた。とっても悩んだ。だって、僕の場合、高校も職業も“選んだ”ってほど、考えて選んでものではなかったから。

きっと、中学生の中には、なかなか進路が選べないという人も多いと思う。そこで、35歳の僕が30代になってようやく気づいた、人生を好転させる極意をお話したい。

高校は私立大学付属の通信制高校の単位制コースだった。でも、ここに行きたくて行ったわけではない。小中学校の多くをいわゆる不登校で過ごしてしまったために、ここにしか入れなかったのだ。しかも、この学校だって自分で探したのではなく、親が見つけてきてくれたから入ったようなもの。まったく自分の意思のない進学だった。

大学は高校が付属校だったので、そのまま付属推薦で上の学校へ。学部は機械工学科だった。なぜ機械工学科を選んだのか? これも「あなたクルマ好きだから、機械工学科でしょ?」という親や周りのムードがそうさせただけで、自分で行きたかったかと言われると微妙なところ。ここでも人生の意思のない進学をした。

そんなハンパな気持ちで入学したから、ぜんぜん大学の授業はおもしろくなかった。そして、自分の人生について真剣に考え始めて、そこでようやく気づいた。「自分には決断力がない」ということに。

それまでそうやって自分で選ばない道を歩んできたから、これからどうしていいかがよくわからなった。モヤモヤしながらも毎日学校に行って「ちゃんと学校行ってるよ!」という姿勢だけは見せていたけど、本心では先が見えない苦しさと戦っていたように思う。

それでもなんとか大学4年生になって、またもや進路という壁がやってくる。一応、就職活動もしてみたけれど、仕事について何の意思もない僕が受かるわけもなく、大学生活もいよいよ終わりが見えてきた。最終的に僕が選んだのは、専門学校への進学だった。

大学時代に本を読むようになったことや、インターネットで自分の意見を発信するようになったことで、「文章で伝えること」に興味を持って編集を学ぶ学校に進学したのだ。もしかしたら、初めて自分で選択した大きな決断だったかもしれない。

この学校では、編集者やライターとして活躍できるよう、専門的な技術だけではなくて、政治や音楽を扱う授業もあって、幅広い世界を教えてくれた。そこで、「自分はひとつのことを突き詰めるよりも、浅くても広い知識を得ることが好きなのだな」と気づいたのだった。

もちろんいいことばかりではなくて、専門学校のわりに就職活動に熱心でない学校だったので、そのまま就職せずに卒業を迎えてしまうんだけど、人生観を広げてくれたのはたしか。

卒業後2カ月ぐらいフリーターをしたところで、ある編集プロダクションの社長と出会い、フリーランスのライターとしてキャリアをスタートした。この出会いは本当にラッキーで、この人に出会わなければ今の自分は絶対になかったなぁと、今も言葉で表せないぐらいの感謝をしている。

それから少しずつ、いろいろな案件を通じて知り合った人たちから仕事を頼まれるようになって今年で10年になった。今はクルマに詳しいことが買われて、クルマメディアを中心にコンテンツ制作の仕事をやっている。仕事はとっても楽しい。

ここまで僕の歩みを聴いてもらったけれど、僕が伝えたいことは大きく2つ。「恐れずに決断をしよう」ということ、そして「みんなと一緒に進むことが正解じゃないよ」ということ。

考えてみると、自分は小さいころから決断のできない子どもだった。自分の思いを伝えたり意思表示をしたりというのが苦手というか恥ずかしくて、いつも誰かに選んでもらっていた。

でも、それでは結局、自分がやりたいことや欲しいものを手にすることはできない。だったら、失敗するリスクはあるかもしれないけど、自分で選んで自分で決断をして、少しでもいいと思う方を選んだ方がいい。

「決断をする」ってすごく難しいし、怖いことだと思う。だから僕も20代になるまで「決断できない人」だった。そこでもうひとつの「みんなと一緒に進むことが正解じゃないよ」が出てくる。

高校に進学して、専門学校や大学に行って、大学院に進むか就職するのが一般的な進路。でも、それってよっぽど順調に小中学校生活を送れた人じゃないと難しいと思う。僕の場合は長く不登校をしていたから「来年は進学よ」と言われても、先のことがまったく見えなくて途方にくれた。

でも、「大学→就職」ではなく「大学→専門学校」、「卒業→就職」ではなく「卒業→フリーランス」と、王道コースから外れたことでぐっと世界が広がった。みんなと同じであることがいいとは限らないし、むしろ他人と違う経験ができたことは今、仕事をする上で大きな強みになっている。

もしこれを読んでくれているあなたが学生だとしたら、小さなことでもいいから「自分で選ぶ癖」をつけてほしい。「今日のご飯はハンバーグがいい」とか「赤い服が着てみたい」とか、そんなことでも構わない。小さなことでも自分で選んだことは自信につながって、その小さな自信の積み重ねで決断力が養われていくから。ちなみに僕は、24歳のときに初めて大金を支払って自分のクルマを買ったことと、一人暮らしを始めたことが大きな決断で、自信をつけることにつながったと思う。

もし親御さんが読んでくれているなら、子どもにたくさんの選択肢を提示してあげてほしい。何も道標がない中からひとつの道を選ぶのは、10代の若者には難しい。記述式より4択のクイズの方が答えやすいのと一緒で、ほんのいくつかでもヒントがあるだけで、「決断をする」「目標に向かう」といった人生で大切な力が養われるはず。

正直、20代はすごく苦しかった。でも、30代になってようやく人並みの決断力が身に付くと、途端に人生が楽しくなった。

みんなと一緒じゃなくてもいいから、自分で自分の人生を選べる人になる。これが生きていく上での極意なんじゃないかと思う。

(執筆=木谷宗義+ノオト 写真=yukio)

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2016年12月1日)に掲載されたものです。

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