宗教って何? 高校生で仏教に興味を持ち、23歳で出家した尼僧・大澤香有さんインタビュー

先輩に聞く

2017/04/11

女性のお坊さん、「尼僧」である大澤香有さん。実家がお寺だったわけではなく、高校生の頃に仏教に惹かれ、その後出家したという。現在は曹洞宗の僧侶として活動している。

23歳で出家した理由とは? 僧侶になるためにはどんな修行が必要なの? 大澤さんに話を聞いた。

そもそも宗教ってどんなもの?

曹洞宗 大本山永平寺にて行われた「瑞世」の様子。曹洞宗では必ず、師匠からの伝法を終えた後に一夜住職を務める儀式を行う。中央が大澤さん

――日本人は、普段の生活で宗教について考えることがあまりないかもしれません。そもそも宗教とはどういうものなんでしょうか?

宗教とは、人間が人間らしく生きるための基本的な教えです。仏教もキリスト教もイスラム教も、本質的には同じことを言っていると思います。

義務教育の過程で、宗教とはどんなものなのかについて、もう少し触れてもいいのではないかなと思います。現在も歴史の授業などで簡単な概略くらいは学んでいるとは思うのですが。

今後世の中の多様化が進むにつれて、さまざまな信仰や宗教的バックグラウンドを持つ友人ができるでしょう。信仰を持つ人が、自分の価値観の基盤となる教えを見つけたことで自分の人生に良い影響を及ぼしていると言える世の中になるといいですね。

――宗教がどんなものなのかがわからないと、例えばクラスメイトの信仰を軽々しく扱ってしまった……なんてことも起こりそうです。

人の信仰を尊重することは非常に大切です。日本人にはあまりない感覚かもしれませんが、宗教を批判することはその人のすべてを否定してしまうことにつながるので注意しましょう。

宗教だけではなく、人それぞれいろんな理念や考えのもと人生を送っています。どんな考え方にも賛同できるわけではないし、主張が対立してしまうこともあるけれども、まずは「世の中にはいろいろな考え方、物事の見方がある」ということを自分自身が理解することが、多様化の進む社会の中で大事だと思っています。

一方で、「その信仰が本当にその人を幸せにしているか」という視点は失いたくないですね。世の中にはいろいろな宗教がありますが、中には信じている人を間違った道へ導いてしまう集団も存在しているからです。

――もし友人から宗教の勧誘を受けたら、どう対応すればよいでしょうか?

まずは、その宗教をインターネットなどで調べてみましょう。ネットの情報だけがすべてではありませんが、少しはその宗教についての情報を得ることができます。

良い宗教がある反面、そうでない宗教があるのも事実。しっかりと自分自身で判断する力を身につけていただきたいです。

近くのお寺にいるお坊さんに相談してみるのも良い方法だと思います。お坊さんは、一般の方よりもさまざまな宗教について知っていますから。もし、そのお坊さんが知らなかったら、その宗教について詳しい人を紹介してもらうのも良い方法だと思います。

ヒントを与えてくれたのが「仏教」だった

フランス南部の修行道場「プラム・ヴィレッジ」にて一般参加者と。右が大澤さん

――大澤さんが仏教に興味を持ったのは高校生のときだと伺いました。

父が駒澤大学高等学校のOBで、進学のとき「駒澤大学高等学校より偏差値が低い高校に行くなら、お金は出さない」と言われたんです。なんとか受かって入学し、たまたま仏教に出会いました。
(注:駒澤大学は、日本の仏教宗派の一つである曹洞宗が1592年に設立した東京都にある吉祥寺、青松寺、泉岳寺の学寮を起源としている。附属である駒澤大学高等学校でも宗教教育が取り入れられている)

――仏教のどのあたりに惹かれたのでしょうか?

高校生のころは親元を離れて祖母の家に暮らしており、かなり自由な環境でした。祖母も忙しく、帰宅しても誰もいないので、だんだんと外食をするようになり、門限も無くなってきて……。私を制限してくれるものが何もなく、ものごとを考える基準が「自分の考え」になってしまっていました。

そんな状況のなかで仏教の授業だけが「これって正しいことなのかな?」と考えさせてくれたんです。例えば、ゴミを道端に捨てたくなったとき、「これってどうなんだろう?」と考えて思いとどまり、ちゃんとゴミ箱を探すとか。自由しかなかった私にとって、日々の生活のなかに正しく生きるヒントを与えてくれたのが仏教の授業でした。

――ほかにも仏教の教えからヒントをもらったことはありますか?

食事です。「感謝してご飯を食べましょう」とよく言うけど、改めて問われると「なんで? 誰にどんな感謝をするの?」と思いますよね。駒澤大学高等学校では、食事の前に必ず「五観の偈(ごかんのげ)」というお経をお唱えします。五観の偈とは、目の前にある食べ物がどれだけの苦労や手間をかけられてここにあるのかをよく考え、それらに感謝し、果たしてこのごはんを食べるに値する資格があるのか、何のためにこの食事をいただくのかを省みつつ、不満・愚痴を捨てて好き嫌いなくいただくことを誓う5つの教理です。

欲張った心やむさぼりの気持ちでごはんを食べるのではなく、身体と心を養生するためにいただく。考えたことのない人にとっては、食事に対する価値観が変わるお経だと思います。とっても短いのでぜひ一度読んでみていただきたいです。

▼食事の偈(五観の偈)
http://soto-kinki.net/sp/okyo/list_gokannoge.php

当時の私は五観の偈を読んで、普段何気なく食べている食事には、「大地の恵み」はもちろん、「食材を作ってくれた人」「運送してくれた人」「調理してくれた人」など、計り知れないほどたくさんの人や自然が関わっているんだ、ということに気づきました。仏教から教わる内容が高校生の自分にとって、当たり前のことに感謝する心や世の中のことを考えるためのきっかけや指針になったんです。

僧侶の生活

ベトナム人の尼僧さんに髪を剃ってもらっている様子

――駒沢大学を卒業後、女性専用の修行道場「愛知専門尼僧堂」で修行されたそうですね。

大学で友人たちが就活する中、私も進路を考え始めました。そのころはまだ「お坊さんになりたい」とは思っていなくて、「ただ修行してみたい」と思ったんです。修行して、自分をもう少し成長させてから就職したほうが、これからの仕事がうまくいくのではないかと考えました。

大学の先生に相談したら「愛知専門尼僧堂という修行道場があるよ」と教えてもらったので、すぐに電話。出家をしていなくても3カ月滞在することができるとのことだったので、頭も剃らないまま実際に行ってみました。

そこで過ごしてみたら、とても面白かったんです。修行は大変でしたが、今まで経験したことのないことばかりで「ああ、自分は生きているんだな」という感覚がありました。もうちょっと続けたいなと思い、曹洞宗の寺院である新潟県の吉藏寺にご縁をいただき、得度式(とくどしき)をしていただきました。

――得度式というのは?

お坊さんになるための儀式ですね。通常はそこで頭を剃ります。「これを守って生きていきなさい」という戒と、僧侶としての名前を師匠から授かり、儀式が終わったら正式なお坊さんとなります。

――修行はどんな内容なのでしょうか?

朝3時半~4時に起きて、坐禅をして、お経を読み、掃除をして、朝ごはんを食べて、そこから1日が始まります。講義、お茶のお稽古、習字、漢詩、お経の読み方など、とにかく勉強の時間が多かったですね。

あとは各々担当の寮(部署のようなもの)が決まっていて、配属された寮の内容に従って動きます。尼僧堂では約20人が4つの寮に分かれます。例えば料理担当の寮だと、メニューを考えたり買い物に行ったりと、ほぼ1日調理場です。そのほか、お客さん担当の寮、お経担当の寮などがあり、3~4カ月に1回、ローテーションで交替していきます。

夜は21時に就寝。その後は自由時間ですが、とにかく覚えないといけないことがいっぱいあるんです。鐘の鳴らし方が何種類もあるし、回数やタイミングもいろいろ。

お風呂は4と9のつく日にしか入れません。つまり4、9、14、19、24、29日で、月6回。その日はいつもより少し自由な時間があるので、頭を剃ったり、洗濯したり、身の回りのものを買ったりできます。

――修行の中で辛かったことと、良い思い出があれば教えてください。

皮膚が弱かったので、あかぎれ、手荒れで指が曲がらなくなってしまったり、手のひらが傷だらけになってしまったり、とても痛かったのが一番辛い思い出です。洗濯機がなく、冬でも洗濯板を使った「手洗い」でしたからね。

良い思い出は……本当の坐禅に出会えたことです。坐禅をしていると、安心(あんじん)を得られます。細胞に染み入るような安らぎ、幸せ、感謝の気持ちが出てくる。心の豊かさを体感できたことがすごく良かったですね。

――「お坊さん=禁欲的な生活」というイメージがあります。やはり肉、酒の摂取はNGなんでしょうか?

修行中の肉、酒の摂取は禁じられています。ですが、修行を終えた後は特に決まった食事やお酒の制限はありません。現在の私は、肉はほとんど食べず、お酒はごくたまに飲むくらいですね。

神奈川県・陽光院で行われたヨガの講習会にて、オーストラリアから来た参加者と。左が大澤さん

――もともと実家がお寺であれば、跡を継いで僧侶になるのが一般的だと思うのですが、大澤さんは違うんですよね。

お寺に生まれた方が僧を目指す場合は、大学を卒業したあとに修行へ行き、自分のお寺に帰って活動するのが一般的です。お寺の生まれではない一般の人が僧侶になろうと思った場合は、どこかで師匠を見つけ出家し、その後修行道場に行きます。修行道場から出た後はどこかで住職をしたり、布教活動をしたりする人もいます。お坊さんの活動といっても縁がないと続けることは困難なので、修行のあと家へ帰って日常生活に戻る人もいます。

――大澤さんの現在の活動を教えてください。

メインの活動は、坐禅指導や法要です。僧侶としての籍は長野県にありますが、現在は特定の寺に定住しているわけではないで、フリーランスのお坊さんというイメージでしょうか。あとは東京都大田区・日の出銀座商店街振興組合事務所でヨガ・坐禅の指導をしています。

――生き方、進路に悩んでいる人へのメッセージをお願いします。

まず、自分の心の声をちゃんと聴いてください。これができるかできないかで、人生が大きく変わります。あなたの夢や願いは、あなたにしか決めることができません。テレビやインターネットを遮断して、何もしない時間をつくってみて欲しいです。

進路や人生に迷ったときは、自分自身にどうしたいのかを直接問いかけてみることが大切です。お風呂の中で、「私はどうしたいの?」と自分に問いかけてみましょう。すぐに答えが出ることもあれば、ずっと答えが出ないこともあります。答えがでないときは、何となくこれかな?と思うものに迷いながらも進んでみましょう。一歩一歩進んでいく中で、少しずつ新しいものが見えてくるので安心してください。あなた以外、誰もあなたの本当の夢を見出すことはできません。もし感動するものに出会ったら、迷わず進んで欲しいです。後から「やっぱり違った」と思ったとしても、それは一歩先に進んだ自分が判断していることなので、絶対に後悔しませんよ。

私は昨年、勤めていた曹洞宗の行政を扱う職場を辞めました。そこでの仕事はとても大切ではあったけれども、自分の心は「僧侶になって本当にやりたかったことは他にあるんじゃないの?」と私自身に問いかけてきました。月日とともにその思いは大きくなり、収入の面も含めてさまざまな不安はありましたが、思い切って退職し新たな道を模索することを決めました。

ずっと前からやってみたかったクンダリーニヨガのインストラクターの資格を取って教えるようになったり、自分で坐禅会をやってみたり……いろいろと苦労もするけれど、とても生きている実感があります。自分の心の声に正直に動いてみて、また新たな道を開くことができました。いまの活動が必ず将来につながっていくと確信しています。

とにかくなんでもやってみて、いろんな経験をしてほしい。頭じゃなく自分の心で考えて、思いっきり感動できる人間らしい生き方をしてほしいですね。

(村中貴士+ノオト)

取材協力

大澤香有さん

1986年東京都世田谷区生まれ。私立駒澤大学高等学校に通うことをきっかけに、仏教に興味を持つ。駒澤大学仏教学部仏教学科へ進学し、4年間仏教を修学。卒業と同時に愛知専門尼僧堂へ修行に行き、平成21年、曹洞宗の寺院である吉藏寺(新潟県)にて得度式を挙げる。同年9月より、正式に僧侶として愛知専門尼僧堂に安居(修行)。平成23年に送行(卒業)。4月より曹洞宗総合研究センターに所属。研修生として坐禅会やワークショップイベント、執筆活動などを行う。平成26年曹洞宗総合研究センターを修了し、同年4月より曹洞宗宗務庁(曹洞宗の行政機関)に勤務。平成28年4月に曹洞宗宗務庁を退職。現在は法要のほか、東京都大田区・日の出銀座商店街振興組合事務所にてヨガ・坐禅の指導をおこなっている。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2017年4月11日)に掲載されたものです。

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