「新宿は世界で一番『女装子が多い街』」――学校の制服を着たくなかったらどうすればいい? 女装コーディネーター立花奈央子さんインタビュー
先輩に聞く
2017/10/10
男の子だけど、本当は女の子の格好をしてみたい。女の子だけど、男の子の格好をしてみたい。服で性別を表明したくない。そもそもどうやって服を選んだらわからない、自分がどんな格好をしたいのかわからない。周りの目が気になる……。
自分が本当に好きな服を身に着け、気持ちよく街を歩くにはどうしたらいいのだろうか?
新宿で女装撮影フォトスタジオ「大羊堂」を運営し、女装パフォーマー「Ladybeard」が所属するアイドルグループ「DEADLIFT LOLITA」のプロデューサーでもある立花奈央子さんに話を聞いた。
ヒゲが生えていても筋肉ムキムキでも、かわいい!
――まずは、立花さんがどんな活動をしているのか教えてください。
男性が女装をして写真を撮影する写真館を運営しています。女装写真の活動を始めたのは、どうしたら“女”になれるのかわからない人に助言ができると思ったからなんです。メイクをしたり、服を選んだり、写真を撮ったりして、きれいになりたい男性の手助けをしたいと思いました。
▼女装撮影のフォトスタジオ大羊堂
http://taiyodo.in/
アイドルユニット「DEADLIFT LOLITA」のマネジメントもしています。“カワイイ”という概念の視野を広げてほしくて。髭が生えていたり、筋肉ムキムキだったりしても、なぜかカワイく見えてしまう。その戸惑いをもって、“カワイイ”って何だろう、と考えてもらえたらうれしいな、と。今のところ、大成功です(笑)。
▼DEADLIFT LOLITA OFFICIAL
――なぜそのような活動をしているのでしょうか?
世の中の常識を壊したいというのが、根っこにあるんだと思います。いろんな人に「こうでなければ幸せになれない」という既成概念を一旦はずしてもらうきっかけをつくりたいんです。
“いじめられっ子”が、ドラァグクイーンに憧れるまで
――立花さんは、どんな子ども時代を送りましたか。
小学校を上がる前から筋金入りのオタクで、いじめられっ子でした。現在、漫画やアニメはポップカルチャーとして成立していますが、私が子どもの頃はオタクはスクールカーストの中で最下層。オタクだということを人に言えないから、好きなことを「好き」と言えず、適当にその場で人に話を合わせてしまう子どもでした。
今思えば、適当に人に合わせていたことで、自分が本当はどんな人間なのか、何が好きなのか、よくわからなくなってしまっていました。
――どうやってその環境から脱していったのでしょうか。
学校の外に友達を求めたんです。小学生の頃から漫画やアニメの掲示板、ファンフォーラムで友達と交流し始めました。中学校の時はコミックマーケットにも足を運びました。
高校生の時は、年上の友達に東京に連れて行ってもらいましたね。ドラァグクイーン(※1)の方のファッションに圧倒されて。上京してからは新宿二丁目で遊ぶようになりました。
(※1)パフォーマンスなどを目的に独創性のある女装をする男性。
――LGBTカルチャーの色濃い新宿二丁目界隈に親しむことが、現在の活動につながったのですね。
新宿は、日本で一番、そして世界で一番「女装子」(じょそこ)さんが多い街なんです。女装している知り合いや友達も増え、彼/彼女たちに深く魅了されました。
美に対して貪欲で、人格が高く見識がある人が多いように感じます。彼/彼女たちの恋愛対象が男性に限らなかったことにも「ああ、そうか」と思いました。女装をしていると、よく「恋愛対象者が男性なの?」と聞かれるそうなんですが、そうとは限らない。服装が自身の性別と一致していても、していなくても、自身が表明している性に対する異性が好きでも、好きじゃなくても、なんでもいいんだ、と。
「女の子の格好をして楽しい」と、身体的に女性になることはイコールじゃない
――まだまだ、世の中の性別の固定概念に悩んでいる人も多いですよね。
でも、昔に比べてかなり状況は変わってきたなと思います。LGBTに対しての目線や、社会の雰囲気が変化してきました。これからもっと「自分で選ぶ」「人の選択を認める」世の中になったらいいなと思います。
――学生の中には、制服を着たくないという人もいます。男女別デザインの、性別を表明する制服に対してどうお考えですか。
私は、制服があってもいいと思っているんです。私服を十分に用意できない家庭も存在しますから。ただ、スカート/ズボンなど男女別でデザインが違う場合、制服について本人がデザインを選ぶ余地があることと、選んだ結果について他の人が干渉しないことが大事だと思います。
身体的に/精神的に男だからこのデザイン、女だからこのデザインとかではなく、「この方が好き」で選んでいいはず。周りは「今日はそれなんだね」「君はそれなんだね」、それでいい。
――服は、ある人にとっては性別を表現するものでもあるし、ただ単に機能で選んでいる人もいますもんね。もちろん、性別と関係ない好みで選ぶ人もいますし。
あと、トランスジェンダー(※2)の人に、「女として生きる」「男として生きる」と決めさせるとかえって自分を見失ってしまう可能性もあるので、制服についても、性別と結び付けすぎずにフラットに選んでほしいなという気持ちもあって。
私の知り合いで「自分は女なんだ」と思って性別適合手術(※3)をした人がいたんですけど、その後に「やっぱり自分は男性だ」と気づいたケースがありました。「女の子の格好をして楽しい」というのと、身体的に女性になることは必ずしもイコールじゃないんです。
(※2)心で感じる性別の自己認識と、身体の性別が一致しない人のこと。性同一性障害も含まれる。
(※3)心で感じる性別の自己認識と、身体の性別を一致させ、精神的苦痛をやわらげるために内外性器を整える手術。
――性別に対する固定概念の強い社会に対して、どのように接していったらいいでしょうか。
いい意味で諦めが必要だと思います。周りの人が「良い」と言っていることと、自分が心の底から「良い」と思うことは一致しない事の方が多いもの。学校の先生やクラスメイト、親など、すべてに対して闘い続ける必要はないんです。余計なエネルギーは使わなくてもいい。「ここは絶対折れたくない」と思ったら、もちろん闘うのもアリですけどね。
――勇気を出して、髪型や服装など外見を変えた際に、家庭や学校などで否定的な言葉を言われたらどうすればいいでしょうか。
無視すればいいと思います。孤独を恐れないで。承認欲求を自分の外側で満たそうとするから、否定された気がして辛いんです。自分にとって、一番の理解者が自分であれば、他人に何を言われても関係ありません。
好きな格好をしたいならすればいい、制服を着たくないなら着なければいい。制服を着ないことで軋轢を生みたくなかったら、とりあえずその場に合わせて「今に見てろよ」って思いながら着ておく。そして卒業後にはじけたらいいと思います。
真っ向勝負以外は妥協して負けたような気がするかもしれませんが、しなやかさは生きるのを楽にしてくれますよ。
(企画・取材・文:西川ちねま 編集:田島里奈/ノオト)
取材協力
立花奈央子
女装コーディネーター。「フォトスタジオ大羊堂」代表、アイドルグループ「DEADLIFT LOLITA」プロデューサー。女装写真の展覧会開催や、TV番組の女装企画にも多数参加するなど、女装のスペシャリストとして活動する。目標は「日本の女装文化を世界へ広く伝播させること」。写真集には「ゆりだんし」(2013)「女装の軌跡と幸福論」(2015)東京女子プロレス選手のグラビア「はじけちゃえ!」(2017)など。
Twitter:https://twitter.com/taiyodo_boss
撮影:SHISEIDO THE GINZA
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2017年10月10日)に掲載されたものです。