「まずは自分をそのまま受け止める」 ELEVEN NINES 代表・納谷真大さんが、いま中高生へ伝えたいこと
先輩に聞く
2018/03/09
北海道札幌市を拠点に活動する演技至上主義集団「ELEVEN NINES」の代表・納谷真大さん。演劇を中心に、さまざまなメディアで作品、企画を打ち出す一方、近頃は若手の育成にも力を注ぎ、中高校生向けに演劇を通したコミュニケーションワークショップも行っている。
納谷さんが、その活動で気がついたこと、中高生に伝えたいことを伺った。
●お話を伺った人
1968年10月19日生まれ。和歌山県和歌山市出身。ELEVEN NINES代表。早稲田大学卒業後、富良野塾を経て、2004年、演劇ユニットイレブン☆ナインを結成。作・演出として多くの舞台作品を作り続けている。役者としてもTVドラマやさまざまな舞台作品などに出演。また、年間50回以上の演劇・コミュニケーションワークショップを行い各方面から高い評価を受けている。
ELEVEN NINES ウェブサイト
「すみません」よりも、どうやったら良くなるかを考えてほしい
――ELEVEN NINESでは若手の育成に力を入れてらっしゃいますが、実際の稽古の様子はいかがですか?
昨年、ELEVEN NINESとして初の俳優オーディションを行い、たくさんの若手が加入しました。彼らと稽古をしていく中で気づいたのが、「ダメ」と言われると委縮してしまう子が多いんです。
僕もすぐに「ダメ」と言うわけではありません。「こうした方がいい」というアドバイスをして、それがちゃんと理解できていない時に「ダメ」と言う。すると、彼らは反射的に「すみません」って謝っちゃうんですね。
僕たちはプロの仕事をしているので、できないことを謝らなくてもいいんです。僕はうちの若手とずっと共存していこうと思っているのだから、改善してほしくて、愛情をもって「ダメ」と言うんです。何がダメなのかをわかってもらい、次にどうすればよりよいものになるかを考えて、やり取りができればいい。
――「ダメ」というのは、次に繋げるための言葉なんですね。
ダメでも別に生きていけるわけですよね。ダメだから死ななきゃいけないわけでも、ダメだから俳優をやめなきゃいけないわけでもない。
たとえば、成績が悪いとそれはマイナスに思われがちですが、僕は成績が悪ければ、「成績が悪い人」という認識でいいと思っています。
人は固有のものなので、1000人いれば、1000の特色がある。それを何か1個にはめ込もうとするから問題が起こってくる。
――ほかにも、稽古やワークショップの中で感じたことはあるのでしょうか。
何かを教わると、それで何者かになれると思ってしまう傾向があることですね。たとえばこの学校に行ったら、こんな資格が取れる。それで資格の内容に関することは全部できるようになっていると思いこんでしまう。
でも、それは違う。イチローからバッティングを教わったら、みんながみんなイチローのように打てるようになりますか? ちゃんと打つためのコツを、自分なりのやり方で見つけなければ無理でしょう。
結局のところ、他者の理屈は他者のものでしかない。その理屈を参考にして、じゃあ自分はどういうことをやるのか。
中学生や高校生と演劇ワークショップを行う中で、「それぞれの個性を自分でちゃんと認知させること」は、学業以外に教育の場がするべき大事なことの一つはではないか、と思います。ただ学校の先生がそれをすべて担うにはカリキュラムの限界がある。その中で僕らがやっているワークショップが役立っているのだなと思いますし、また、それは保護者それぞれの役割でもあると。
ネガティブに思ってくる人もいるが、信頼できる大人を見つける方が大事
――納谷さんは定時制高校でワークショップを行うこともあるそうですね。
はい。僕も定時制高校について興味があったので、「定時制ってどんな感じなの? みんなに定時制の学生だから、何か言われたりするの?」と生徒に尋ねました。すると、やっぱりいろいろ言われることもあるそうです。
僕はアイドルの子たちのお芝居を演出することもあるのですが、その中にもアイドル活動と学業を両立させるために通信制高校に通っている子が何人もいます。
通信制高校や定時制高校に行くと、世間からネガティブにとらえられることも多い。でも、僕はそういう風潮を変えようとするよりも、そのような目で見られることがあると子どもたちが理解する方がいいと思う。
そして偏見でものを見ない大人たちを少しでも見つけて、信用できる大人の言葉を聞いていくことが大事。ネガティブにとらえる人は、それで構わない。ただそういうふうに見る人と接する時も堂々として、「そんなネガティブなことではないんだな」とわかるような生き方をすればいいんですよ。
客観的に自分も他者も受け止める
――中高生はさまざまな悩みやコンプレックスを抱えることもありますよね。最後にアドバイスやメッセージをお願いします。
僕ね、小指の先がないんですよ。俳優を目指している中で、ケガをして失くしてしまいました。禿げてきたときも、とても悩みました。
「納谷さんにとって、これらはコンプレックスじゃないんですか?」と聞かれますが、もちろんコンプレックスです。指も髪もあったほうがいいと思いますよ。でも、ないんだから。しょうがない。
自分の現状にちゃんと向きあって、受け止めることが大切です。子どもから大人に成長する過程で、あきらめではないですが、「自分の思った通りに世の中は回らないし、自分の思うように人生は生きられない」と気づいていきますよね。
だから、その中でどうやってこの人生を楽しめるのかを、考えさせてあげるのが大事だと思っています。自分のやりたいことはなんなのか。それはできるのか、できないのか。できないだろうけど、あきらめたくないから、がんばってみるのか。
人間の価値はその人が持っているやさしさや思いやりだと思うのです。みんなが、そういう思いやりや他者をちゃんと受け止める覚悟をもって、生きていれば日本はまだまだ改善されていく可能性がたくさん残っていると思いますよ。
――ありがとうございました。
インタビューの中で、「若い頃は演劇の師匠が言うことに腹が立ったし反発もしたけど、やっぱり教わったことは、確実に僕のベースにある。そんなふうに、今の若手に何か伝わればいいなと思って劇団をやっています」と語る納谷さんに、演劇と若者たちへのまっすぐな愛を感じました。
3月には中学校の卒業生に向けた『はじまりは、おわりで、はじまり』(一般向け公演あり)、そして8月には札幌演劇シーズン2018夏で『12人の怒れる男』の上演が決まっています。研ぎ澄まされた納谷さんの演劇の世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。
(企画・取材・執筆:わたなべひろみ 編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材協力
TO OV café ト・オン・カフェ
札幌市中央区南9条西3丁目2-1マジソンハイツ1階
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年3月9日)に掲載されたものです。