「大人だって、しくじりながら生きている」――働く大人が真面目に伝える、失敗を楽しく転換する方法

先輩に聞く

2018/04/04

東京・品川にある日本マイクロソフトで3月17日(土)、「近未来ハイスクール 挫折したもん勝ち講座」が開催された。

「近未来ハイスクール」は、さまざまな背景をもつエッジのたった人(=変人)と高校生をつなぐキャリアプロジェクト。大人との接点の少ない学生が、近未来やキャリアを考えられる場だ。当日は学生11人を含む計22人が参加した。

すでに8回目の開催となる今回のテーマは、働く大人の“しくじり”。一見、社会的に成功しているように見える大人でも、過去には多くの失敗や挫折を体験しているもの。そんな大人たちが真正面から失敗と向き合い、笑顔で乗り越えていく姿は、学生の目にはどのように映るのだろうか?

大人のリアルなしくじり体験

午前は建築士や国家公務員、デザイナーなど、さまざまな仕事に就く8人の「職業人」がしくじりプレゼンテーションを行った。

これまでも「近未来ハイスクール」に登壇しているというフリーランスでコンサルティング業を行う本間充(ほんま・みつる)さんも、発表者の一人。もともとは家庭用品を扱う花王株式会社で研究員として勤務していたそう。

本間さんは、これまでの人生で2度のしくじりを経験しているという。

1度目は、高校2年生の時。160点満点のテストで18点をとるほど、化学が苦手だったのだそうだ。生まれて初めての赤点は、本間さんにとっては大きな挫折だったという。2度目は、研究員として会社に入社した際。化学があまりにも苦手だったことから、専攻を物理へと変更していた本間さんだったが、入社後またしても目の前に大きな壁が立ちはだかる。自分の実力に自信を持っていたのにも関わらず、同じようなスキルを持つ優秀な人員が多くプレッシャーに負けてしまったのだ。

そんな過去の経験から、本間さんはしくじりから立ち直るための方法を見出したと語る。

「自動で動く掃除機の『ルンバ』っていう商品あるでしょ? あれって壁にぶつかるたびに方向転換して、また新しい方向に進みだすよね。ぶつかったら、また方向転換。だから、しくじったのならその度に方向転換していけば良いと思う。僕も同じように、化学が苦手で方向転換をして、研究職が肌に合わなくて方向転換をした。その後、縁あって今のコンサルタントという仕事に巡り合っているし、おかげで今はすごく楽しいと感じているんだ」

ほかにも、複数の企業で社員として働く高橋さんは、自身の人生を“しくじりだらけ”と語る。高校時代には野球部の大会への出場辞退、社会人になってからも義父が社長を務めていた会社が入社半年で倒産を余儀なくされるなど、多くのしくじりを経験した。

「僕は、人生の中でたくさんの挫折をしてきました。でも、今となってはその挫折経験すべてが、その先の人生を豊かにするためのきっかけだったと思っています。今の仕事は、当時の挫折無くしては生まれていません」

挫折も、必ずのちの人生に活きる要素となる。職業人の、挫折に対するさまざまな捉え方が印象的だ。

「怖くなかったですか?」学生が大人に問いかけたいこと

ランチタイムを挟み、午後からは少人数のグループに分かれ、学生から職業人に質問するディスカッションの時間に。

「今までとは違った職種に進むことに対して、怖さや不安はありませんでしたか?」
「学生時代に学んだことは、今の仕事にどう活きていますか?」

イベントに参加する学生の悩みはさまざま。職業人は、一人ひとりの悩みに寄り添い、共に解決策を探すスタンスで答えていく。

「もちろん怖さも不安もある。むしろ、今だって新しいことに対しては怖いことだらけ。でも、それらを怖がりながらでもいいから少しずつ前に進んでいくだけで、見える景色はだいぶ変わったね」
「今の仕事に活きているかどうかじゃなくて、どうしたら今の仕事に学生時代の学びを活かせるのかを考えながら働いているよ」

大人だって、たくさんの夢を持っている

ディスカッションの時間が終わり、参加した学生たちは「『転がっているチャンスをいつでも拾えるようにしておく』という言葉が胸に響いた」「挫折に対する捉え方や、乗り越え方がそれぞれ違った点にすごく興味が湧きました」など、満足げな表情で感想を発表する。そうして今日のイベントを振り返るなか、一人の学生から質問があがった。

「プレゼンテーション中の『10年後に何をしているのかを絵に描くことで、夢を持つといい』というお話が心に残りました。みなさんは、今も夢を持っていますか?」

意外な質問に戸惑いながらも、8人の職業人が順番にマイクを取る。

「55歳くらいでエイッと会社を辞めて、ゆったりと仕事をするような生き方がしたいなぁ」
「大きな枠組みで言うならば、世界平和が夢です。とくに、あんまり良いイメージを持たれていないような国々の印象を変えるような活動がしたいですね」
「世界中のどこにいても仕事ができるような体制をつくりたい」
「棺桶に入るときに、いい人生だったと思いながら目を閉じること」
「小さな夢を叶え続けること」
「自分の身の回りにいる人が、幸せに毎日を生きること」
「アジアのあたりで、盛り上がるサービスをつくりたい」
「夢は、毎日を楽しく生きること。そのために、ときどき小さな夢を設定することもあるよ」

多種多様な夢が並ぶ。大人になってもこんなにたくさんの夢があるのかと、学生たちの目がキラリと光る。職業人を代表して本間さんが学生に語りかけた。

「みんな、夢ってさ、ものすごく高尚なものだと思っていない? 何かの職業に就くことだったり、途方にくれるような壮大なプロジェクトだったり。そんな風に夢という言葉だと、どうしても身構えてしまうけど、本当はそんなにすごいことばかりを思い浮かべなくたっていいと思うんだよね」

本間さんの言葉に、真剣に耳を傾ける学生たち。

「『どんな風に生きたいかな?』『やってみたいことや、好きなことは何だろう』そんな風に、身近なところから考えて夢を持ち続けてほしい。小さな夢でもいいから持ち続ければ、生きることをきっと楽しく豊かにしてくれるはずだよ」

今を生きる大人のリアルな言葉は、彼・彼女らにどのように届いているのだろうか。

現役高校生は、なぜ“しくじり”をテーマに選んだのか

今回のイベントを開催するにあたった経緯について、主催団体である株式会社オプンラボの小林利恵子(こばやし・りえこ)さんに話を聞いた。

毎回4〜5割の学生がリピーターだという本イベント。今企画も、実過去に何度かイベントに参加していた現役高校生が提案したのだという。“職業人のしくじり”をテーマと決めた理由を、小林さんはこう話す。

「一見成功しているように見える人でも、過去に大きな挫折や失敗をしていることもあるかもしれません。社会で格好良く働く大人たちが、どうやって挫折に立ち向かってきたのかを、学生は知りたいのだと思います」

また「近未来ハイスクール」の運営を続けるにあたっては、小林さんなりの学生に対する想いがあるのだとも述べる。

「これまでの開催分も含めて、2つの願いを込めて運営しています。1つ目は、高校生の興味の幅を広げること。知らない世界を学生が知ることで、将来の選択肢になればという想いからです。もう1つは、興味を深掘りすること。せっかく知った新しい職種や生き方について、もっとイベントを通して深く知ってほしいと思っています」

選択肢を増やし、一つひとつ自分に問いかけ選び抜く

イベント終盤には参加した学生だけでなく、職業人からも興味深い意見があがる。

「僕らの若い頃は、今ほど将来の選択肢は無かった。だから、迷うことなく当たり前のように進路を選択して生きてきました。でも、今君たちが悩んでしまう原因の一つには“選択肢が多すぎる”こともあるのかもしれないね」

人生の選択は自由。どんな選択も、正しくもなければ間違ってもいないのかもしれない。まず自分の中の選択肢を増やし、自分が大切にしたいことはどんなことなのかを考えるということ。

もし進むべき道に迷ったら、ほんの少し心の声に耳を傾けてみてはどうだろうか。

(取材・執筆:鈴木しの  編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

近未来ハイスクール

近未来ハイスクールは、第一線で仕事をする「職業人」と「学生・先生」をつないで、未来につながる「行動変容」のきっかけを作る場です。ここで触れる職業人は「変人」です。他の人との違う人=変人は、その差異が価値となり、さまざまな形で社会課題の解決に貢献します。

http://opnlab.co/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年4月4日)に掲載されたものです。

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