「LGBT=つらい境遇」とは限らない! 今、セクシャルマイノリティに関するよくある勘違い
先輩に聞く
2019/01/29
中学校の道徳の教科書へ掲載も決まった「LGBT」という言葉。セクシャルマイノリティの存在を当たり前に学ぶ時代だからこそ、子どもだけでなく大人も正しい知識をもっておきたいものです。
しかし実際には、「正しく知る機会」がないまま大人になった人がほとんどではないでしょうか。学校や企業でLGBT研修を行う認定NPO法人ReBit(リビット)教育事業部マネージャー・小川奈津己さんは、「セクシャルマイノリティはいまなお、十分に理解されているとは言えない状況」と話してくれました。
私たちは何を知り、どう理解すればよいのでしょうか。現在でも「よくある勘違い」とは……。自身もトランスジェンダーの当事者だという小川さんに伺いました。
学校や職場でもLGBTについて知る機会は増えている
――まず、ReBitが行っているLGBT研修など、事業内容について詳しく教えてください。
ReBitでは、大きく3つの事業があります。セクシャルマイノリティの就活生が自分らしく働けるようサポートしたり企業でのLGBT研修を行ったりする「LGBT就活」、全国でのLGBT成人式開催などを通して各地にリーダーを根づかせる「リーダー応援」、そして学校や行政向けにLGBTの理解を深めてもらう「LGBT教育」です。子どもたちへの出張授業だけでなく、先生や保護者に向けてLGBTへの理解を深めてもらうための研修も行っています。
しかし、私たちが直接出張授業に伺える範囲はどうしても限られます。そこで、学校の先生がご自身で授業をできるよう、オリジナル教材の開発も手がけています。
――研修の依頼は増えているのでしょうか?
学校、行政、企業向けいずれもかなり増えていますね。今は、人権課題にセンシティブな時代です。オリンピック憲章に盛り込まれている「性自認・性的指向による差別禁止」の項目や2018年に東京都で成立した「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」などもその一つ。さらに、働き方改革の文脈の中で「マイノリティの働きやすさ」も注目され、理解を深めようする動きも目立ってきています。例えば企業では、以前は、管理職や人事など一部の社員向けの研修が多かったのですが、最近は全社員参加の研修も増えてきました。
――研修ではどのような内容を伝えているのですか?
まず大前提として、「あなたがアライ(Ally)であってください」と伝えています。「アライ」は同盟や味方を意味する「アライアンス」の略語で、LGBTだけでなくあらゆるマイノリティに対して自身が差別的な言動をしない、そういった言動をしている人に注意するなど、日常的に「理解者」としてのふるまいを心がける姿勢を指す言葉です。
職場に理解者がいるだけで、セクシャリティに悩む人の働きやすさや生きやすさは大きく変わります。だから、「アライ」であると表明できるように、名札やパソコンに貼れるステッカーも準備しています。
セクシャリティは100種類以上に分類できる
――2019年の現在、LGBTを取り上げるニュースなどがかなり多くなったように感じます。いま、LGBTについて知っておきたいことはどんなことでしょうか?
まず、LGBTという言葉には「狭い意味」と「広い意味」の2つがあります。
狭い意味では、女性同性愛者であるレズビアン(L)、男性同性愛者のゲイ(G)、両性愛者のバイセクシャル(B)、生まれたときに割り当てられた性別と自認する性が異なるトランスジェンダー(T)の人々を文字通り表しています。
広い意味では、L・G・B・T以外も含めたセクシャルマイノリティ全般の総称です。例えば、恋愛感情や性愛の対象を持たない「アセクシャル」や、日によって自認する性別や感覚が違うという「ジェンダーフルイド」と呼ばれる考え方などがあります。ReBitでは、LGBTを後者の「広い意味」で捉えています。
セクシャリティの分類は、「自認する性(こころの性、ジェンダーアイデンティティ)」や「身体の性」、恋愛や性的感情などの対象を表す「性的指向」、振る舞いや服装などの「性表現」の組み合わせによって、100種類以上に細かく分かれています。例えば、Facebookでは性別欄に50種類以上の選択肢があります。「性はグラデーション」と表現していますが、マイノリティのなかにもさまざまな多様性があるんですよ。
――100種類もあるのは驚きです……! 誰もが何かに当てはまりそうですね。
そうですね。僕も調べてみたら、ピッタリの言葉を見つけたことがあります。ただ、呼び方があることで安心感を得られる反面、「らしさ」にとらわれてしまう怖さもあります。
僕は女性の身体で生まれ、性自認が男性。いわゆる「トランスジェンダー」です。その診断名である「性同一性障害」という言葉を知ったときには、男性として生きていける可能性を感じられて安堵感がありました。しかし、同時に力が強くて筋肉もあるような「男らしさ」に憧れていたわけではなかったので、今度はそこに戸惑ってしまったのです。同様に、僕は性的指向が男性だったため、男性として生きていくなら女性を好きにならないといけないのではないか、男性が好きなら女性でいなければいけないのではないか、ということにも悩みました。
――LGBTという言葉だけにとらわれず、それぞれの人の違いや多様性を見ていかないといけないんですね。
だからこそ、最終的にはさまざまなマイノリティについて寛容になれる意識づくりをしたいと考えています。LGBTに限らず、それぞれの持つ「マイノリティ性」を肯定できれば、学校ならいじめ問題の解消にも繋がるでしょうし、自分のマイノリティ性も認めやすくなるでしょう。それを伝えるメッセージの一つとして、LGBTを切り口に発信しています。
LGBT=つらい境遇とは限らないと知ってほしい
――ここ数年でLGBTという言葉がかなり浸透してきました。ただ、いまお話いただいたように、なかなか深く理解されづらい言葉でもあります。周囲に勘違いされがちなことってありますか?
よく聞くのは、同性愛者だとカミングアウトしたときに「自分のことを襲うなよ」と言われるなど、差別的な言葉を投げかけられることですね。
同性愛者も異性愛者と同じく好きなタイプがいて、告白などのアクションを起こすかどうかもそれぞれ。ですので、そこは勘違いしてほしくないなと思いますね。トランスジェンダー男性であればパートナーは「彼女」と断定されるのも同じです。
――カミングアウトを受けたら、どんな対応をすればいいのでしょうか?
腫れ物に触るように接したり、聞かなかったことにしたりしてしまうのは、本人にとって一番悲しいことです。まずは「話してくれてありがとう」と伝えてあげてください。カミングアウト後に何かしらの対処を必要としているのか、あるいは他の誰に話したのかといったことも確認しておいた方がいいでしょう。
そもそもカミングアウトされた直後は、驚きのほうが先に立つ人も多いと思います。研修では、「カミングアウトはプロセス」という言い方をしていて、すぐに全てを理解できなくても対話によって関係を再構築していくことが大切です。
――向き合う姿勢や対話が大切なんですね。とはいえ、セクシャルマイノリティに関して、急にマイナスイメージや誤解を拭えない人もいますよね。
そうですね。研修の中で僕自身の話をすることもあるのですが、参加者の方にアンケートを書いていただくと「つらい状況を乗り越えていてえらい」とか「言いづらいことを明るく話す姿が印象的だった」という感想が多いんです。でも、「LGBT=つらい境遇」とは限らないので、「かわいそう」「大変そう」という感想に終始してしまうことは避けたいと私は考えています。そうなってしまうのはこちらの力量不足ですね。
セクシャルマイノリティだけじゃなく、「女性は結婚して子どもを持つことが幸せ」「男性は家庭を持って一人前」など、これまでの慣習によって作られた幸せのイメージによって、周りからかけられる言葉に傷ついている方もいます。
でも、結婚しなくても子どもがいなくても、幸せに暮らしている方は世の中にたくさんいらっしゃいます。どんな人でも、自分が納得する形で自分らしく生活していくことこそが、幸せな人生でしょう。だから、我々が変えていくべきなのは「LGBT=つらい境遇」の裏にある「幸せに対する価値観」なのです。
もちろん自分はLGBTの代表でも何でもありません。ただ伝える機会が多いからこそ、「LGBTってこういう存在」というステレオタイプを再生産しないように気をつけています。セクシャルマイノリティ当事者自身の意識も含め、マイナスなイメージは変えていきたいですが、一概にポジティブならいいというわけでもなく、そこでの多様性も大切にしていきたいですね。
――今後、世間に広く伝えていきたいメッセージを教えてください。
セクシャルマイノリティの当事者が過ごしやすい環境は、すべての人にとっても過ごしやすいと思います。「自分がほかの人と違う」と感じても、「そんな自分で大丈夫」と思える感覚や居場所を持っておくことが大切です。
セクシャルマイノリティだけでなく、あらゆる人の「こうでいなきゃいけない」という感覚がなくなり、もっと自分らしくいられる社会になればいいですね。
想像力は思いやりーー自分と同じように周りも大切にしていきたい
小川さんの話を聞いて浮かんだのは、童謡詩人の金子みすゞさんが残した「みんな違って、みんないい」というフレーズでした。それぞれに良さがあって、好きなものも違って当たり前ということが自然と考えられる世の中になるよう、一人ひとりがこれまでの常識や固定観念に捉われずに、思いやりや想像力を持つことができたら、みんながありのままで過ごせる気がします。
(執筆:橋本結花 編集:鬼頭佳代/ノオト)
取材先
認定NPO法人ReBit
「LGBTを含めたすべての子どもがありのままで大人になれる社会」を目指し、教育機関等への出張授業と教材作成、LGBT成人式などのイベント開催、LGBTの就活支援などを行っています。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年1月29日)に掲載されたものです。