就活するまで英語は大嫌いでしたーーロシア・ウラジオストクで旅行会社を営む宮本智さんに聞く、海外で仕事をする方法

先輩に聞く

2019/06/19

海外で働いてみたい。でも、どうやったら海外で働く仕事に就けるのでしょうか?

今回、取材に応じてくれたのは、旅行や国際交流事業を手がける宮本智さん。ロシア・ウラジオストクで会社を経営しています。

ロシアの極東部に位置するウラジオストクは、東京から飛行機で2時間半、中国や北朝鮮とも近い場所にあります。1917年のロシア革命前後には日本人約6000人が住んでいたとされますが、現在は100人余りにまで減少しました

※日本からの距離は近くとも、異国であることを強く感じる町並み

海外での仕事歴は10年以上、過去には上海でも働いていた宮本さん。しかし、就職活動をしていたころまで英語が大嫌いだったとか!

なぜ海外、それもロシアで働く道を選んだのでしょうか。現在の仕事内容やこれまでの経歴、そして将来海外で働きたい人のためのヒントを探ります。

旅行やビジネス、日本とロシアの間に立って渡航をサポート

――まずは、いま宮本さんが手がけている事業について教えてください。

主に、ウラジオストクと日本を行き来する方々のサポートです。例えば、日本人旅行者の希望に合わせて、現地のガイドを手配したり、情報を提供したり。

旅行者以外にも、ウラジオストク視察を希望する企業からの依頼で、現地企業訪問の手配や通訳として同行しています。最近だと、雑誌の取材や撮影サポートの依頼も多いですね。

一方で、ロシアの音楽隊やスポーツチームが日本へ行くための手続きをしたり、通訳兼ガイドとして日本に同行したりすることもあります。

※2017年夏にウラジオストクなど一部地域で無料電子ビザが取れるようになったこともあり、2018年のウラジオストクへの日本人渡航者数は2万5000人にのぼった

――ウラジオストクの魅力を紹介するお仕事もされていますよね。

情報サイト「ウラジオ.com」では、ロシア語がわからない日本人旅行者でも楽しめるお店やスポットを厳選・紹介しています。現地情報は、知人に教えてもらったり私自身が足を運んだり、ですね。

その積み重ねもあって、2018年には「地球の歩き方」シリーズの現地ライターとして、ウラジオストク専門のガイドブック制作に携わりました。

※2019年現在、ウラジオストク専門の日本語ガイドブックは1冊のみ。現地を訪れる日本人の多くが携帯する

英語は大嫌い! でも、苦手なまま生きていくの?

――海外で働くには語学力が必要になります。宮本さんは学生時代から英語が得意だったんですか?

全然、そんなことないです! 中高どころか、大学時代まで英語は大嫌いでした。

例えば、自己紹介の文章で“His name is Mike.”などを習いますが、「Mike(マイク)? ミケじゃん」と読み方につっこんだりしていましたね。ほかにも、“Fine, thank you. And you?” のように、同じ単語を繰り返したりするのもピンとこなくて。

このレベルからつまずいていたので、中学校の英語テストでも29点とか、良くても65点くらいでした。高校のテストでも平均点は20点台だったと思います。

大学の英語の授業で外国人の先生にも日本語で話しかけるくらいに、ひねくれていましたね(笑)。

それで、「日本人なのに、なんで英語を話さないといけないんだ。英語はできなくても、日本人を相手に仕事をすればいいや」と本気で考えていました。

――何がきっかけで海外に興味を?

日本文化が好きだったので、千葉の高校を卒業してから浪人して、京都の大学へ進学しました。ちなみに、1年浪人したのも、英語の点数が全く足らなかったからでした。

在学中、就職活動でいろいろと苦しいことがあって鴨川を眺めていたんです。そうしたら、京都へ来ている外国人観光客が急に目につきました。

その瞬間、「人生はここから80年や100年も続くのに、英語が苦手という大きな壁を乗り越えずに生きていたら、すごくもったいないんじゃないか」と頭をよぎったんです。京都では外国人へ観光サービスを提供するするタクシー運転士さんの姿などを見ていたこともあって、「もし英語ができたら視野が広がるのではないか」とも感じました。

それで覚悟を決めて、“超スーパー大嫌い”だった英語の猛勉強を始めました。最初は国内の英会話教室へ通い、大学卒業後は親に頼んでアイルランドに10カ月ほど語学留学したら、それが面白くって。

――言語を学ぶ面白さに気がついたんですね。

はい、英語の授業が合わないからって、海外で働くのを諦めなくてもいいと思います。出会った先生が必ずしも面白く英語を教えてくれるとは限りませんし、世界にはさまざまな言語がありますから。むしろ、言語構造の近い韓国語や漢字を使う中国語がしっくりくるケースもあるでしょう。

ほかの視点で言うと、英語ができる日本人はたくさんいて競争が激しい。だから興味がある国があるならば、多少マニアックでもその言語を身に着けることで希少な存在なるという手段もあります。仮に英語ができたとしても、もう一つ他の言語を学ぶと世界が複層的に見られるようになりますから。

僕の場合は、現地で暮らしている人たちが何を話しているのかが知りたくて、中国語やロシア語も勉強していきました。

※当時の現地日本人の有力な情報源だった日本語新聞「浦潮日報」の旧編集部の建物。ウラジオストクには日本にまつわる建物も複数残る

とにかく、どうしても海外で働きたくて

――上海やウラジオストクで、仕事に就くまでの経緯を教えてください。

留学先のアイルランドには、さまざまな国出身の学生がいました。なかには、自分よりずっと若いのに立派な人がたくさんいて……。まさに「自分の知らない世界がメチャクチャたくさんある」と衝撃を受けました。

それで世界をもっと見たいと思い、日本の工場で半年働き、稼いだお金をつぎ込んで、いろいろな国でしばらく住む……という生活を何年も繰り返したんです。

――生粋の旅人ですね。

むしろ、「放浪」という表現のほうがしっくりきます(笑)。

ただ26歳の時に「職歴もないし、新卒でもない。手に何の職もない。これから俺はどうやって生きていくんだろう」と気づいて。そこで日本で仕事を探し、幸い中国人や韓国人向けの不動産会社に雇ってもらいました。

ただ働きながらも「いつか、自分も海外に住んで仕事がしたい」と思っていたんです。そこで、アメリカの不動産関連資格を取り、ビジネスパートナーを見つけ、アメリカでの起業を計画しました。

ところが、ビザの問題で急に渡航できなくなり、パートナーとも仲違いしてしまって……。僕は行く気満々だったにもかかわらず、計画が頓挫してしまいました。

それでも海外で働きたくて、とりあえず上海に向かったんです。これまでに出張で数回渡航していたので、なんとかなるかなと思って。

――すごい思い切りですね!

その後、現地で知り合った中国人と一緒に、日本企業の中国進出サポートサービスを立ち上げ、4〜5年運営しました。事業自体は安定していたのですが、徐々に新しいことがやりたいなと感じるようになってしまって……。

――そして、ロシアへ。

はい。上海にいた頃、モスクワやサンクトペテルブルクを旅行したんです。

ロシアは日本が好きで親切な人が多いし、美しい芸術を大切にする文化があって、食べ物もおいしい。あと、キリル文字(ロシア語で使用される文字)も神秘的に感じました。

とにかく渡航前に自分の中で抱いていたロシアのイメージよりも、現実はすごく良かったんです。それでハマってしまいました。

けれど、ロシアでは英語を話せる人は少ないし、時間感覚がゆるい。それに家族の時間を大切にして、仕事から帰宅するのも早い(笑)。それで、「この人たちはどうやって暮らしているんだろう? もっと深く知りたい!」と思ったんです。

それで、現地の人とコミュニケーションをとりながら、より深くロシアに入り込める仕事ができないかと考えました。

※ウラジオストクは、モスクワまでつながるシベリア鉄道の終着駅のある街でもある

――モスクワやサンクトペテルブルクではなく、なぜウラジオストクで働こうと思ったのでしょうか? 正直、あまりメジャーな観光地ではないのかなと感じたので……。

まず、土地と相性というか……フィーリングですね(笑)

それに、海外で暮らすためには、そこで自分が食べられるような仕事を作らないといけない。2013年に初めてウラジオストクに来た時、この規模の街ならば、自分でもやっていけるんじゃないかと感じました。

――どういう意味でしょうか?

※ウラジオストクの中心地は端から端まで歩いても30分程度。見どころの一つであるグム百貨店裏は、3年ほど前から若い人々が個性的な店を展開するようになった

例えば、日本の観光の仕事でも、「東京」専門の人は沢山います。そうするとライバルも多いじゃないですか。でも、ウラジオストクはロシアのなかでいうと、九州のなかの一都市くらいのポジションの街なんです。

今はインターネットがあるので、地元のおじいちゃんが経営する小さな店でも、ちゃんと魅力を伝わればお客さんが殺到することがありえます。

ウラジオストクは目立つ観光地はなくとも、街歩きやお土産、現地の文化などが十分に楽しめる場所。そういう地域の魅力を伝えられると感じました。

価値観が違う人々と働くからこそ、達成感がある

――宮本さんをそこまで夢中にさせる、「海外で働く面白さ」ってなんなのでしょうか?

自分と全然違う価値観やライフスタイルの人々と働くと、いろんな不便があるんです。でも、それをなんとかすり合わせて一つの仕事を成し遂げる達成感。それが、一番の面白さですね。

円滑にコミュニケーションを取るためにも、お互いの文化をちゃんと伝えるようにしています。大変なことも多いですが、同時に助けてもらうことも多いですよ。海外というアウェーな場所だからこそ、さらにありがたみを感じますよ。

それに、日本がいかに恵まれていて過ごしやすい場所なのかということにも気づけます(笑)。

――最後に、海外に興味を持つ中高生へのメッセージをお願いします。

※海まで続く噴水通りには、さまざまな雑貨店やカフェが並び、旅行者にも人気だ

将来の夢は「どんな仕事をするか?」から考え始めるケースが多いですよね。けれど、ものすごく好きな国があるならば、その気持ちを大切にしてもいいのではないでしょうか。

一昔前はロシアで働くなんて想像もつきませんでしたが、今はインターネットで簡単に情報が得られる時代になりました。

でも、その一方で、ネットで情報を読んだだけでその国や文化を理解したと思わないほうが良いと思います。実際、現地で過ごしてみると、全然違う印象を持つことはありますから。中高生だと大変かもしれませんが、可能であれば一度行ってみるといいでしょう。

ビザの手続きなど大変な面もありますし、僕もすごく裕福な暮らしをしているわけではありません(笑)。でも、僕は毎日を気楽に過ごしています。ウラジオストクはめちゃくちゃ良いところですよ。

(企画・取材・執筆:鬼頭佳代/ノオト  撮影:Daichi Yamada)

取材先

宮本智さん

有限会社うらじお・代表。東京や上海での仕事を経て、2014年末からウラジオストクへ移住。国や民族ではなく「人と人」をベースに、街の魅力を伝えることを目指し旅行業、国際交流事業を運営中。

http://urajio.com/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年6月19日)に掲載されたものです。

この記事をシェアする