舞台子役→就職→カメラマン!? 動物園カメラマン寺島由里佳さんに聞いた「好きなことの見つけ方」
先輩に聞く
2016/09/26
暖かい日差しと緑の中で、寝転がって竹で遊ぶジャイアントパンダ。
このなんとも気持ちのいい写真を撮影したのは、フリーカメラマンの寺島由里佳さんだ。広告や雑誌の仕事をしながら、動物園で暮らすさまざまな動物たちを撮影することをライフワークとしている。
「なり方」のわかりづらいクリエイティブな職業に就く寺島さんに、これまでの経歴やどうやって進路や仕事を選んできたのかなど、話を聞いた。
カメラマンってどうやったらなれるの?
――カメラマンにはどうやったらなれますか?
カメラマンは「○○したからなれる」というものではないんです。専門学校に行く人や師匠につく人、私のように異業種から転職してくる人など、カメラマンとして活躍している人の成功事例はバラバラ。よく学生から「カメラマンになるためには、学校に行ったほうがいいですか?」と聞かれますが「行ってもいいし、行かなくてもいい」と答えています。自分で道を探り続けることができれば、きっかけをつくることができると思います。
――なぜカメラマンになりたくなったのですか?
実は、朝起きたら「私はカメラマンになるらしい」と頭の中に降りてきたんです(笑)。だから、理由はよくわからなくて。当時は、クルマの設計デザインをするCADエンジニアの仕事をしていました。その仕事が嫌だったから転職したのではなく、なぜかカメラマンになると信じていましたね。
――「カメラマンにはなれないかも」とは疑わなかったんですね。
そうですね。何かをしようと思ったときって「あれができない」「これができない」というネガティブな気持ちに引っ張られがちになりますよね。そのエネルギーはもったいないと思っていて。「カメラマンになるために何かをしなければいけない」と考える前に、すでにカメラマンになっている気持ちでした。
――やりたい仕事ってどうやって見つけたらいいんでしょうか?
「好きなことを仕事にしよう」とよく言いますよね。すると「好きなことってどうやって見つけるの?」と疑問に思う人もいると思います。そのときに必要なのが、「考える力」なのかなと。与えられた環境の中で、いかに楽しさを発見するか。今の環境を変えたいなら、自分が何をしたらいいか。例えば青と黄色の絵の具を渡されたときに、そのままその2色だけで絵を描くか、それを混ぜ合わせて違う色をつくれるかという差ですね。そのように発想を転換させる力があれば、やりたいことや人生に繫がる仕事が見つかると思います。それに好きなことが見つからなくても、そのときにいる環境を楽しめる方が、毎日が好転してより豊かな生活になりますよ。
――学校の勉強って、社会に出てから直接役に立つでしょうか?
勉強は大事だと思います。けれど、個人的には大人になってからのほうが、勉強の楽しみや喜びが増えましたよ。興味がないと勉強にも熱心に取り組めないですし。私にとって学校は必ず行かなくてはいけない場所ではなかったですね。もっと小さな頃からいろいろな選択肢を広げてほしいです。
ミュージカル「アニー」に選ばれ舞台の世界に
――寺島さんはどのような学生生活を過ごしましたか?
小学2年生から大学生まで、役者として仕事をしていました。小学2年生のとき、ミュージカル「アニー」の出演者を募集していたので、気軽に応募してみたら選ばれて。全くの未経験だったのでびっくりしました。それから本格的にダンスレッスンや発声など、しっかりと演劇のいろはを叩き込まれました。人前で仕事をしてお金をもらっていたので、その頃からフリーランスみたいなものでしたね(笑)。
――では、小学生のころは演劇漬けの毎日だったんですね。
はい、学校も早退する必要があって。修学旅行も欠席しましたね。学校より演劇の世界のほうが楽しかったですね。学校とは違う世界を見ることができて、どんどんとコミュニティが広がっていったので。学校の狭いコミュニティから抜けて、良い人も悪い人も含めて、いろいろな人がいたので社会勉強にもなりました。
――その後中学生になってからも仕事は続けましたか?
ちょっとした仕事を続けながら、一度学校生活に戻ってみたいなって思い学業に専念し始めました。小学校のときのように、集団生活やコミュニティの中で1人だけ違うことをしていると浮いてしまうので、少し生活を変えてみようかなと。でもあまり楽しくなかったですね。
――何かトラブルが……?
小学生のときに大人に囲まれた大きな社会に出た経験をしたので、友達の学校の悩みや話題などをうまく共感、共有できなかったんです。あと、当時2と3ばかりだった通信簿を勉強して4と5にしたときに、態度を急変する先生がいて、なんか馬鹿らしいなって。なんのために学校や先生が存在するのか疑問に思いましたね。
――その後はどのような進路を選びましたか?
高校を卒業するときに、一度進路をきちんと考えようと思いました。卒業後1年間いろいろ考えて、大学に進んで勉強しながら演劇を続けようと決めてから、受験勉強を始めました。今思えば選択肢がすでに広かったから、立ち止まれたのかなって思います。学校に行かずに演劇一本でチャレンジすることもできたので。
――選択肢を広げるために、必要なことはありますか?
学校に縛られずどんどん多くの経験を積んでほしいですね。たとえ失敗しても、その経験が自身を大きくしてくれる機会になるので恐れないで挑戦してみましょう。わたしもたくさん失敗をして挫折してきましたが、それが糧になっていると思います。学校と家だけが世界だと視野が狭くなりやすいので、そうやって年齢や環境が異なるさまざまな人に出会ってほしいですね。
仕事とライフワークの両立、いずれは動物園カメラマンに
――現在ライフワークとして動物園の写真を撮影されているのは何がきっかけか、教えてください。
9年前に仕事の合間に時間ができて、なんとなく上野動物園に行ってみたんです。そうしたら、ホッキョクグマの “ユキオくん”に一目ぼれしまして(笑)。それから業務の合間をぬって、動物園に通い始めましたね。もともと動物は好きでしたが、それまでは頻繁に通っていたわけではありませんでした。
――今回の個展「きょうも、どうぶつえん」に飾られている写真を拝見して、動物園の動物が見せるちょっとした表情がとってもかわいらしいなと感じました。
すごくかわいいんです! ホッキョクグマの何気ない仕草や、キリンが普段あまり見せない姿などを見れたりして。本当に一瞬の表情なので、動物園に行くと連写で撮り続けちゃいます。今回の個展「きょうも、どうぶつえん」を開くときに会場を貸していただいた「circle gallery & books」のオーナーさんには、私が動物や仕事の話をしていると「いい意味で暑苦しい」って言われます(笑)。動物に関わらず、自分の興味のスイッチが入ると熱くなっちゃいますね。
――お仕事をしながらだと撮影も大変そうですね。
基本的には商業カメラマンなので、広告や雑誌の撮影をメインにやって。たまに出張が入るとそのまま現地に残って動物園に行くこともあります。
――進路や将来に悩んでいる方に向けて、メッセージをお願いします。
私が今カメラマンをやっているのは、幼いころからのいろいろな経験や選択が積み重なって、その結果だと思います。何がきっかけで自分の人生が変わるかってわからないものです。何か気になっていて迷っていることがあれば、思い切って飛び込んじゃいましょう。
(松尾奈々絵/ノオト)
取材先
●Photographer yuricamera / 寺島由里佳
ポートレイトを中心に、広告雑誌媒体などで活動中。ライフワークで動物園にいる動物たちを撮り続け、全国・世界の動物園を巡るのが夢。ポストカード、iPhoneケースなど企業とのコラボグッズ開発の他、大学や「カメラの学校」の講師、企業・行政とのイベント企画なども行う。
※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2016年9月26日)に掲載されたものです。