動物とのふれあいからコミュニケーション力を伸ばす!動物園で学べる通信制高校って?
通信制高校
2024/11/20
動物が好きで、将来は動物に関わる仕事がしたいと考えている生徒たちに向けて、近年はペットに関連するコースを設けた通信制高校が増えてきています。その中でもトリマーやトレーナーなどの仕事を学べたり、動物の生態学や飼育方法を学べたりと、コースも多様化してきています。そんな中、2024年4月には動物園をキャンパスとして大型動物とふれあえる通信制高校が開校しました。
それが、栃木県にある「さくら国際高等学校」の宇都宮キャンパスです。同校では宇都宮動物園と連携し、さまざまな動物の飼育を学べるのだとか。
今回は、この全国初の動物園をキャンパスとした通信制高校について、運営を担う合同会社Crewの伊川夢起(いがわ・ゆめき)代表にお話を伺いました。
キリンにゾウ、トラ……大型動物たちとも日常的に関われる
2024年4月に開校したさくら国際高等学校・宇都宮キャンパスですが、特色はなんと言っても、動物園をキャンパスとして日々動物たちとふれあえる動物飼育コースです。
「犬や猫などペットとして飼われる小型動物を対象にしたコースは、昨今人気が高く、設置する高校が増えてきています。また、家畜のお世話をする農業関係のコースを設けた学校もあります。しかし、動物園で大型動物の飼育を、年間を通して学べる学校は、これまでなかったのではないかと思います」
と伊川さん。キリンやゾウ、カバなど大きな動物から、トラやヒョウなどの猛獣類など、日常ではふれあえない動物たちについて、働きながら学べる学校は、全国初となるようです。ここで飼育員や獣医師などのプロに教わりながら実践的に学ぶことで、卒業後に働くイメージもしやすくなりそうです。
「映像授業など机の上で学ぶだけでなく、動物園の仕事はこうだよと現場を理解しながら学んでもらえるのが当コースのメリットです。動物園で働くだけでなく、ペット関連の仕事や動物病院の仕事など、将来的に動物に関わる仕事に進んでもらえればと思っています。たくさんの種類の動物の飼育を体験しながら、自分に向いている道を探っていってほしいです」
動物飼育コースでは動物に関わる授業は宇都宮動物園が担当し、その他の高校の学習過程はさくら国際高校のオンライン授業や教室で学びます。
動物飼育コースの他に、ペット総合コース、ビデオグラフィーコース、調理経営コース、コミュニティデザインコース、eスポーツコースがあり、すべてのコースにおいて、通学は週2〜5日から選ぶことができます。生徒それぞれのペースや事情に合わせて無理なく通うことができそうですね。
動物とのふれあいで対人コミュニケーションも成長
この宇都宮キャンパスを運営する合同会社Crewは、宇都宮市を中心に学習塾や放課後等デイサービスを経営する会社です。伊川さんはそこで、不登校の生徒や発達障害のある生徒が、学校卒業後の進路に不安を抱えている様子を目の当たりにしてきたと言います。
「不登校や発達障害の子どもたちの多くが、対人関係に問題を抱えています。そういう生徒たちが、学校卒業後にいきなり社会に出るのは、なかなか難しいことです。当校では、そうした子もまずは動物たちとのノンバーバル(非言語)コミュニケーションを習得することで、徐々に対人のコミュニケーションがうまくなっていくようになればと考えています」
動物たちに健康に過ごしてもらうためには、エサをどれくらい食べたか、どんな仕草をしているかなどをよく観察しなくてはなりません。小さな変化やサインに気付くスキルを身につけることが、人間同士のコミュニケーションにも活きていくはずだと伊川さん。
また、机上だけではない学びによって、将来自分がどの方向に進んでいきたいかを考えることが大切だとも話します。
「昨今、体験の貧困という言葉も出てきているように、子どもの成長にとって体験はとても重要な要素となります。中学卒業後になんとなく高校に進学して、なんとなく3年間を過ごしてしまうと、さらにその先に就職、大学や短大・専門学校への進学と多様に広がる選択肢の中からどれを選べばいいのか、わからなくなってしまう生徒が多いように感じます。いざ就職となったときに、『こういう仕事しかないと言われたんですけど、どうしたらいいですか』と相談に来る生徒もいます。そうならないために、高校までに多様な体験をして、自分の道を模索しておくことはとても大切だと思っています」
また、入学時にはWISC検査(ウィスク検査/子どもの知能を測定するための検査)を実施することも特色だとか。
「検査結果を先生と共有して、得意・不得意を理解する資料にしてもらえればという意図で行っています。自分の特性がわかれば、より効率的に学んだり、進路を絞り込んだりすることにつながっていきます」
発達障害ではない生徒もWISC検査によって自分の得意なこと、苦手なことがわかれば、日ごろの学習方法を工夫しやすくなるとのことです。
巨大イベントでお店を出す体験も……!?
宇都宮キャンパスは2024年4月にオープンしましたが、実はまだ生徒は0人。実際に学校として活動がスタートするのは2025年度からになるとのことです。
「宇都宮キャンパスの認可が下りたのが2023年12月で、広報したタイミングが2024年の1月からだったため、2024年度には生徒が集まりませんでした。現在は、宇都宮市の内外問わず、たくさんの生徒さんからお問い合わせをいただいています」
さくら国際高等学校は全国にキャンパスを展開していて、キャンパス同士の連携や交流も積極的に行っていきたいとのこと。
「まだ計画段階ですが、現在ある秋田キャンパス、千葉キャンパスなどと連携したイベントなども考えています。さくら国際高等学校本校では、毎年代々木公園で行われる『ラオスフェスティバル』を主催しているのですが、こうした巨大イベントにも生徒たちが出店して、実際にお金を稼ぐ経験をしてもらうのもいいですね。さまざまなことにチャレンジできる高校生活にしてほしいと思います」
中学校までは体験できなかった新しいことにチャレンジしたい人は、さくら国際高等学校を選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。
取材協力
さくら国際高等学校・宇都宮キャンパス
https://sakura-kokusai.jp/
合同会社Crew代表・伊川夢起さん
https://llccrew.com/
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。