「求められるのは世界の潮流であり必然」 東大名誉教授が語る通信制高校の可能性
生徒・先生の声
通信制高校
2021/01/19
一昔前まで、高校を選ぶ基準は「偏差値」と「地域」でした。
ほとんどの中学生は家から通える場所にあり、自分の学力レベルに合う高校を周囲からのアドバイスを元に考え受験することが、一般的な進学ルートだったと言えます。
しかし、社会ニーズの多様化や法改正により、通信制高校を選ぶ生徒が増えてきています。
人口減少に伴い高校の新規入学者数が毎年減り続けている中で、通信制高校への入学者は増えています。
その傾向はここ数年でより顕著になり、2018年までは約18万人で推移していた通信制高校の入学者は、2019年に19万人、そして2020年には20万人を突破しました。
この状況を、ロボット研究の第一人者で東京大学の名誉教授を務める佐藤知正先生は「世界の潮流であり必然の流れだ」と話します。
高校生の人数が減る一方で、通信制高校が進学先の1つとして選ばれるようになった理由を詳しくお聞きしました。
通信制高校だからこそ「考える力と実践力」が身につけられる
「通信制高校へ入学する生徒が増えているのは、通信制高校のイメージが『勤労学生の通う学校』から『不登校になった生徒が通う学校』へ、
そして令和になり『やりたいことにチャレンジできる学校』として認知されてきたからでしょう」
誰もがインターネット上の膨大な情報にスマホで簡単にアクセスできるようになり、興味のあることを見つけやすくなりました。
そうして学びのニーズがどんどん多様化する一方、ゲームや漫画、eスポーツなどを本気で学ぼうと思ったら、中学生の進路の選択肢は通信制高校しかないと佐藤先生は言います。
そして、生徒1人ひとりが役割をもち、チームで技術開発や課題解決に取り組むプロジェクト型授業(PBL:Project Based Learning)のように、全日制の普通科高校とは異なる教育が受けられるようになったことも通信制高校が選ばれている理由の1つなのだとか。
実際、世界有数の大企業であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を筆頭に、現代社会に重要な役割を果たしているグローバル企業はさまざまなプロジェクトチームを立ち上げて新しい技術の開発と価値の創出に挑んでいます。
プロジェクトでは、仮説を立て製品をつくり、検証とアップデートを図りながら社会に貢献するモノやコトを提供していきます。
この流れを受け、世界の教育現場ではプロジェクトをベースに考える力と実践力を養う授業が増えてきているのです。
「例えばデンマークでは小学生の頃からグループワークを行い、子どもたち1人ひとりの自主性を伸ばしてきました。思いついたアイデアを自由に発表でき、学校はそれを個性として認める。そうした教育は自立心を養い、デンマークには多くのベンチャー企業が誕生しています」と佐藤先生。
日本でも生徒が能動的に授業に参加する「アクティブラーニング」が学習指導要領に盛り込まれるようになりました。
しかし、全日制の普通科高校ではすでに定まっているカリキュラムを再度組み直すことは時間的にも環境的にも非常に難しく、本格的なグループワークはあくまで課外活動として行われているのが実情です。
「これでは、ビジネスやモノづくりの最前線で世界と競える人材を育てることは難しいでしょう。基礎を学んでから応用へステップアップする暗記型授業(SBL:Subject Based Learning)に慣れすぎると、自分で仮説を立て検証するという作業にうまく対応できないのです」
PBL: Project Based Learning | SBL: Subject Based Learning | |
スタイル | 課題解決型 | 暗記型 |
学習順 | 仮説→検証の繰り返し | 基礎→応用へステップアップ |
回答 | 複数 | 1つ |
目的 | 解決までのチャレンジが目的 | 問題解決 |
学習者 | 1人~グループ | 基本的に1人 |
方法 | ディスカッション、体験 | 板書 |
こういった状況で期待されるのが、カリキュラムを柔軟に組める通信制高校なのだと佐藤先生は言います。
学歴社会は崩れ、“学習歴社会”がやってくる
これからは学歴ではなく、「何を、どう学んできたか。どんな経験を積んできたか」という『学習歴』が問われるようになると言われています。
大学受験や就職活動の選考にはもちろん、働くようになってからも『学習歴』によって任されるプロジェクトの成果は大きく変わる可能性もあると佐藤先生。
では、そんな『学習歴』はどうやって身につけて行けばいいのでしょうか?
佐藤先生は、『学習歴』を得るために必要なのは、コンテストなどのチャレンジ体験を通して実践経験を積むことだと言います。
「最新の研究で、人間の脳は考えるだけで強化されることがわかりました。つまり、人間は自分で脳をつくりながら生きている、ということです。
教わったことを、もう1つ深く考えてみる。そうした癖をつけるには、技術を身に付けたり何かをつくった際はコンテストに参加したり、人に使ってもらったりすることが効果的です」
例えば、自分が頑張って作ったロボットがコンテストで敗退すれば、悔しくて、「なぜ負けたのか」と考えることになります。
何を、どう変えれば勝てるのか。そうやって次へ活かす方法を模索し思案することで、「コンテストで勝てるロボットのつくり方」を「その科学技術の基礎とともに学ぶ」という学習歴を得ることができます。
また、授業の一環で作ったゲームやアプリを小学生に遊んでもらう。そうすれば、より多くの小学生に自分がつくったモノを楽しんでもらおうと小学生のニーズを探ります。検証と改善を繰り返すうち、次第にコストや教育効果にも目が向くようになり、「多くの小学生に遊んでもらえるゲームのつくり方」の学習歴を得られるのです。
そして、この学習歴を積むためには、好きなことに取り組むということが欠かせないと佐藤先生は言います。
「好きなことに取り組むことが最も大切です。それは、好きなことであれば失敗を糧にできますが、興味がなければ諦めることになるからです」
好きなことを学び続けることが社会から求められる秘訣に
日本の教育課程で、OECD(経済協力開発機構)から高く評価されている学校があります。それは、高等専門学校です。
高等専門学校では16歳から仲間と一緒に手を動かし、技術を体験を通して習得します。そして早いうちからインターンも行い、将来の職業に向けて5年間“陸続き”で学ぶことが出来ることが評価の理由なのだとか。
ですが、高等専門学校に行かなくても、例えば通信制高校から大学へ進学し、7年間ずっと好きなことを追求していけば、大学を卒業する頃にはきっと社会に求められるスキルが備わっているはずだと佐藤先生。
「通信制高校でPBL(Project Based Learning)に慣れていれば大学でもチームを主導する立場になるはず。その経験もまた1つの学習歴となり、社会へ羽ばたく上での強固なベースとなるのではないでしょうか」
「社会も、学習ニーズも多様化する中で、今後は、モノづくりなど自分が好きなことを通して多くの人に喜んでもらい、社会に貢献したいと真剣に考えている中学生ほど、通信制高校を選ぶようになってくるでしょう。そして、その中から世界を舞台に活躍する人材が出てきてくれるはずと信じています」
この記事を書いたのは
通信制高校ナビ編集部