高校生からエンタメの道に進むのはヤバい? 元芸人の起業家に聞いた「夢を追ったその先」

通信制高校

2022/03/07

高校生からエンタメの道に進むのはヤバい? 元芸人の起業家に聞いた「夢を追ったその先」
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将来の夢に向かって、早くからチャンスをつかみたい。
でも、
中学生や高校生からその道一本だけに決めて大丈夫?
もし夢が叶わなかったらどうなるの?
と、一歩を踏み出せない中学生・高校生も多いのではないでしょうか。

大人たちの中には、「選択肢を広げるためにも、高校までは幅広く勉強をしておいたほうがいい」と言う人もいます。
一方で、吉本興業やワタナベエンターテインメントが「吉本興業高等学校」や「渡辺高等学院」といった、“通信制高校“という枠組みの中でエンターテインメント教育を開始しています。

自分の夢があり、実現に向けて学べる通信制高校に興味はあるけれど、踏み出すべきなのか……。
そう悩んでいる生徒に向けて、今回は元芸人で、コンサルティング企業「株式会社俺」の代表取締役・中北朋宏さんにお話を伺いました。

●お話を伺った人

中北朋宏さん

大学中退後に浅井企画に所属し、お笑い芸人として活動。お笑い芸人解散後、人事系コンサルティング会社に入社し、新商品の販売実績では2年連続MVP、中小企業コンサルティングにてMVPを獲得する。 2018年2月には株式会社俺を設立し、お笑い芸人からの転職サービス「芸人ネクスト」や笑いの力で組織を変える「コメディケーション」を展開。

芸人時代のスキルは会社経営にも活きている

―― まず、中北さんがお笑い芸人を目指すようになったきっかけについて教えてください。

「小学生の頃、学校の給食の時間に僕が何か面白いことを言うと、友達が牛乳を吹き出してくれまして(笑)。

いつも学校の帰り道、明日はどんなことして笑いをとろうかなぁと考えていました。それで自然に『自分のやっていることは芸人さんがネタを考えるのと一緒なんだ。だから将来はきっとお笑い芸人になるんだ』と確信するようになっていました」

―― そこから実際に、お笑いの道に入った経緯は?

「大学時代に好きだった女性がおりまして。何度アタックしてもなかなかダメだったんですけど、当時バンド活動をやっていたので、120人くらいお客さんを集めて、告白を目的としたサプライズライブを企画したんです。でも玉砕してしまい……。

学校にも居づらくなり、この先どうしようかなぁと考えているときに、当時の親友の勧めもあって、『やっぱりお笑いだ』となったんです。そこで大学を辞めてNSC(吉本総合芸能学院)に入りました。その後東京の芸能事務所に所属するようになり、お笑い芸人になりました」

―― 吉本興業の運営するエンタメの学校、NSCで学んだことはどんなふうに芸人時代、また現在の仕事に役立っていますか。

「周りがみんな芸人を目指しているという環境は刺激になりました。比較され続けるし、順位もつけられる。常に競争意識を持つことの大事さを学びました。人前でネタを披露する機会が多かったのも良かったですね」

―― 学校に通う学生が、みんな同じ目標に向かっている環境というのは特殊ですね。

「ええ。NSCにはみんな『自分が一番面白い!』と思って来るんですけど、やっぱり上には上がいて。そういうことを実感できたのが良かったですね。また、NSCでは日常会話がいつも“フリ”になっている文化なんです。
普通の回答はしない。常に面白いことを返すために意識を研ぎ澄ませていなくてはならない環境でした」

―― 芸人時代は6年間とのことですが、その経験が今の仕事、人生にはどう結びついていますか?

「これに関しては、メンタルとスキルという2つの観点があります。メンタルに関しては『芸人として絶対に売れる』と小学2年生から確信していたのに全然売れず、プライドが徹底的に折られたんです。でもそのことで人生に一生懸命になることができました。これまでコスパ重視だった人生観が、泥臭く努力していく方向へ転換したんです。これはとても重要だったと今実感しています。

また、『社会人の当たり前』に染まらなかったのも良かった点です。いわゆるサラリーマン的な価値観を知らずに来られたからこそ、発想を転換して次の行動をとることができるようになったと思います」

―― スキルの部分として今に活きていることは?

「トークの技術ですね。芸人はステージ上で100人、200人という人たちに笑いを届けるので、たとえば企業に入って営業をする場合に、1対1で物が売れないわけがないんですよ。
他にも、先輩や上司の懐に飛び込む技術など、人間関係を円滑にするスキルも培われたかと思います。こうしたスキルは、現在の仕事で企業研修の際にもお伝えしています」

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10代からチャレンジすることそのものに価値がある

―― 中北さんは、若いうちから芸人にチャレンジしてきたと思いますが、若いうちにやりたいことに向けてチャレンジすることの意義は何だと思いますか。

「まず前提として、人生は『やるかやらないか』の二択で、基本やるしかないと思っています。

その上で若いときにやることのメリットとしては、人から応援されやすくなるというのがありますね。周囲に応援してくれる人たちがいるだけで、成功確率は上がります。

僕は27歳のときに芸人を辞めて会社に入り、33歳で独立しましたが、まだ社長としては若い部類だったので、たくさんの方から助けていただくことができました。若いときにチャレンジすると、それだけで希少な存在になることができます。何かに挑戦している人って、周りを見渡してもそんなに多くはないんですよね」

―― 確かに、どれだけの人が応援してくれるかは重要ですね。

「あと、取り返しがつくという点もあります。たとえば17歳からやりたいことを始めたとしたら、たとえ27歳で諦めたとしても、10年間もチャレンジした後に、また新しい道に行けるわけです」

―― 後からいくらでも修正ができるのだから、怖がらずに早くから始めたほうがいいということですね。

「ただ、もし諦めるのだとしたら一生懸命にやってからにしたほうがいいと思います。僕はどこかコスパ重視だったところがあって、コツさえつかめば簡単にホームランが打てるものだと思っていました。しかし実際はどんな有名人でも人気YouTuberでも、コツコツ地道な泥臭い努力の上に成り立っている。そのことを思い知って今があります。

頑張った上で諦めたのであれば、夢を諦めることになったとしても、そのときの努力が形を変えてその後の道に役立つのだと僕は信じています。そもそも少しでも上を目指して挑戦していく姿勢は一生続けていないと、社会の変化についていくことはできないのではないでしょうか」

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自分自身に偏見を持たず、広い視野で行動しよう

―― 逆に、やりたいことが見つからないという中高生はどうすればいいでしょう。

「やりたいことが見つからない理由は2つあると考えています。ひとつは『引き出しが足りない』ということ。充分な経験を積んでいないために情報が足りず、やりたいことが見つからない、という状態です。見つからなければ、いろんなことをやってみることです

―― 行動せずに机上で考えていても何も出てこないということですね。もうひとつは?

「血管が詰まっているという状態です。

たとえば歌手やスポーツ選手、ケーキ屋さんなど、幼い頃に持っていた夢に向かい合わず、どこか途中で置き去りにしてしまっていると、血管が詰まるように過去の夢が代謝されずに、今持っているはずの夢を塞いでしまうのです。

ですから、昔の夢や目標と向き合い、まずそれにチャレンジしてみるといいと思います。しょうもないと思うことでもいいからやってみてください。そこで納得すると、次の目標が自然に見つかると思います」

―― やりたいことが見つかったときに、気をつけなくてはならないことはありますか。

「『好き』を要素分解することが大切です。

今好きだと思っているのはモノなのかコトなのか。もし目標が芸人だったとしたら、芸人というモノが好きなのか、笑わせるコトが好きなのか。前者のままである場合はリスクが高いと思っています。モノからコトへ落とし込むことが必要です。

次に、たとえば笑わせるコトが好きなのであれば、何も芸人だけが笑わせているわけではないと考えてみましょう。良い企画書を出したり、美味しい食事を作ったりして相手を笑顔にすることも、立派に笑わせるコトに入るよなぁ、といったふうに分析していくと良いですよ。

同じ要領で、どうしてもやりたくないことや嫌いなものも分解していくと、心をすり減らすことなく前向きにチャレンジできると思うので、ぜひやってみてください」

―― 今は、『吉本興業高等学院』や『渡辺高等学院』のように、エンタメを学べる通信制高校もありますが、いかがでしょうか。

「もし舞台を作っていきたいと考えているなら、素晴らしいと思います。一般的な全日制高校に通っていてもエンタメについて学ぶことはできないし、通信制高校なら夢に向けてやるべきことをやる時間も確保できます。そして、同じ目標を共有できる仲間との出会いも待っています。

それで高卒資格まで手に入るなら、将来の選択肢を広げる上で役に立つと思いますね」

―― 学歴そのものに関してはどのような考えを抱いていますか。

「僕が芸人からの転職を考えたとき、ほとんどの企業は大卒資格を必要としていました。卒業していれば良かったと思うこともありました。起業する際にも、有名大学を卒業して有名企業に入っていれば、その大学のコミュニティから仕事の案件が来る、という大きなメリットもあります。

なので、ある・なしで言えば当然あるに越したことはないですよね。やりたいことによって学歴は必ずしも必要ではありませんが、人生の選択肢を増やすことを考えると、大事なことだと思います

―― 不登校などの事情を抱えて通信制高校を選ぶ中高生も多いのですが、中北さんの経験からアドバイスはありますか。

僕は子どもの頃からお笑い芸人を目指していたこともあったのか、地元の価値観と合わなかったんです。学校を面白いと思ったこともないし、今でも付き合いのある友達はほとんどいません。そもそも、たまたま同じ箱に入れられて、その中で仲良くしなさいと言われても、無理があるじゃないですか。

もし学校が嫌なら、今いる環境やルールを疑って、より広い世界に目を向けるのがいいと思います。『今自分が○○だから△△しかできない、✕✕になるしかない』みたいな考え方は、視野が狭いから起こる自分への偏見だと思うんです。今いる環境が合わないとしても、視野を広げれば、これから出会う素晴らしい人たち、素晴らしい経験に目を向けることができますよ」

―― ありがとうございました。

<取材・文/中島理>

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この記事を書いたのは

中島理

1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。