通信制高校はどうやって選ぶ? 全日制からの転入を経験した親子の学校選び体験記
通信制高校
保護者の声
2022/09/12
通信制高校の生徒数は、ここ5年で1万人以上増加しています。
これは、全日制の高校に入ったものの、いろいろな理由で学校が合わず、通信制を選んで入り直す……。そんな生徒が増えていることも大きな要因のひとつでしょう。
ただ、高校進学を考える際に、通信制高校も検討したという人は少ないため、全日制から転入する際に苦労するのが通信制高校選びです。
通信制高校の数は年々増加している一方で、学校の内容は各学校で大きく違っています。
そこで実際に、この春から通信制高校に転入した生徒とその保護者に、転入するまでの経緯から、通信制高校選びや決定した要因、転入前後の変化などについてのお話を伺いました。
中高一貫校に高校から入学、コロナ禍もあり通学が困難に
今回、お話を聞いたのは都内に住む高校3年生のケンタ君と、そのお母さんのユカさんです(いずれも仮名)。
ケンタ君は一昨年、都内にある中高一貫の私立高校に高校から入学しました。その頃はコロナ禍の真っ只中で、入学式も生徒のみ参加、授業はオンラインが基本に。春のオリエンテーション合宿も行われず、生徒たちも戸惑う中で異例ずくめの新生活がスタートしたのです。
加えて中高一貫校では、内部生(中学から入学している生徒)は中学の3年間で高1相当程度のカリキュラムを終えており、外部生(高校から入学している生徒)は最初の1年間で頑張ってそこに追い着く、というところが多くなっています。
ケンタ君は高校からの入学だったので、ただでさえ最初は勉強が大変なところに、コロナ禍でのオンライン対応も始まってしまったのです。もともとマイペースなところもあるケンタ君は、そこでの高校生活を振り返って「授業についていけなくなって、厳しかった」と言います。
それでも、ダンス部に入って活動するなど、やる気も見せていたケンタ君でしたが、緊急事態が明けて対面授業が再開されても、通学できない日が多くなりました。コロナの影響で進級の判定が柔軟になっていたため2年生にはなれましたが、定期試験も受けられないことが続き、3年生への進級が難しくなっていったのです。
そして進級判断のタイムリミットが迫っていた9月、学校祭で部活での練習成果を発表したことをきっかけに、以後はまったく出席しなくなりました。
担任からは「12月の期末試験さえ受けられれば、進級の可能性はある」と言われていましたが、ケンタ君は、2年生の秋が終わる頃には、12月の試験は受けずに高校をやめることを決めたのです。
母親であるユカさんはこう話します。
「先が宙ぶらりんになっていた時期は本人もつらかったようで、ほとんど外出もしていませんでしたが、学校をやめると決めてからは吹っ切れたらしく、明るくなりました。私も担任の先生との話の中で、『通信制高校に転入することも考えている』と話していましたが、12月の試験に行かないことが決まった時点で、『学年が変わるタイミングで通信制に移ります』という話をしました」
当初の想定から変更も……本人の希望と選択肢
こうして、昨年12月からユカさんは通信制高校選びに本腰を入れ始めました。
ただし、この時点ではケンタ君に要望を聞いても「うーん……何でもいいよ」という感じで、具体的な返答を得られなかったため、ユカさんはある程度、自分で見繕ってから彼に提示することに。
都内だけでもたくさんある学校の中から絞り込んでいく条件としたのは、ケンタ君の状態を考慮して「キャンパスが通いやすいところにあるか」「メンタルサポートは充実しているか」「登校回数が少なくても大丈夫そう」の3点でした。
この「通信制高校ナビ」をはじめとして、まずは比較サイトを見て検討し、10校程度に資料請求。すぐに電話がかかってきた2校と、それ以前に目星をつけていた2校に説明会の予約も入れました。その後、ケンタ君と話しているうちに「通学もできたほうがいいか」と考え、検索の幅を広げたそうです。
ただ、ここで予期せぬ事態が。個別指導を特徴とする学校の説明会に行こうと誘うと、ケンタ君が「個別指導のところはちょっと……」と言い出したのです。それはユカさんにとっても予想外で、説明会は1人で行くことになりました。
「他に3組参加していたんですが、ウチだけ子どもが来ていなかったので、ちょっと恥ずかしかったです(笑)」(ユカさん)
年末年始を挟んで学校選びの検討を続けましたが、ここで有力候補として浮かび上がってきたのが第一学院高等学校でした。
「サイトを見て、バランスがよさそうだなと感じました。大学受験にも対応しているし、通学コースも充実しているようだったので。説明会にも、いい印象を持って臨みました」
ただ、ここでまたユカさんは予想外の事態に遭遇します。いくつかあるキャンパスの中から、ターミナル駅でケンタ君も趣味の買い物で何度も行ったことのある秋葉原を選んでいたのですが、ケンタ君から「秋葉原は人が多くてイヤだ」と言われたというのです。
秋葉原は自宅の最寄り駅から乗り換えなしで行けるというメリットもあったのですが、「人が多いところがイヤということは、ターミナル駅はダメということか」となり、またかなり絞られることになりました。
みなさんも経験があるかもしれませんが、子どもと一緒に何かを選ぶ作業をしていると、急に「これはイヤ」と言い出して路線変更を余儀なくされることは珍しくありません。これは気まぐれということではなく、子どもは大人ほど予備情報を持っていないということが理由として挙げられます。
対象が絞られてきて具体的になって、初めて見えてくることも多いのです。ユカさんもケンタ君の反応に驚いたようですが、こういうときには寛容な対応が必要です。
幸い、「通学しやすく、そこまで人が多くない」という条件に当てはまるキャンパスが見つかり、2人で個別説明会に行ったのは2月初旬。ここではキャンパス長の先生が丁寧に話を聞いてくれたこともあり、ケンタ君もかなり前向きになったようです。
このときに見せてもらった課題レポートのサンプルが、「そんなに大変そうじゃない」という印象だったのもよかったのだとか。
前述のとおり、ユカさんは新学年の4月からの転入を考えていましたが、第一学院高等学校では「早期復学支援制度」を実施していて、2月や3月からは追加料金なく通うことができる(ただし、その年度の単位取得はなし)と知りました。
それを利用すれば学校にも早く馴染めるだろうということで、急きょ転入は3月からということに。ケンタ君の反応もよかったことから、これでほぼ決定となりました。
「ただ、本当はあと2校ぐらい一緒に見に行きたかったというのが本音です。比較材料が少ない中で決めてしまっていいのか、というのは本当に考えていました」
ここまでの選考の過程で、ユカさんが迷っていたことがもうひとつありました。「サポート校と本校ではどう違うのか」という点です。
最初はその違いがよくわかっていませんでしたが、いろいろと検討していった結果、本校のほうが金額面で折り合うところが多いという印象を持ったそうです。このあたりはご家庭によって条件も違ってくるでしょうが、やはり金額も大きな要素のひとつです。
また検討の材料として、ユカさんは企業のクチコミサイトもよく見たそうです。
「進学塾が母体の学校も多いので、親会社のクチコミを見て参考にしました。中には『教育よりも金儲けに走っている』という書き込みもあったりして、判断材料にはなりました」
自分のペースで学び始めたことで、プレッシャーは軽減
こうして3月から第一学院に入ったケンタ君ですが、すぐに通学を始めたわけではありませんでした。
ユカさんは心配する気持ちもありますが、以前のようにその都度「どうするの?」と尋ねてプレッシャーをかけたら同じことになってしまうと思い、また部活主催のゲーム大会に参加するなど、興味のあるところをきっかけに学校に行くこともあるので、今は見守っているそうです。
4月には三者面談もありました。担任の先生は熱く話をしてくれて、「せっかく能力があるんだから、それを生かして頑張ってみたら」と励ましてくれたそうです。そういったこともあり、ケンタ君も大学受験や将来のことなどについてユカさんと話すことが、以前よりも多くなってきたと言います。
「以前は現状維持に精一杯で、『とにかく高卒資格がとれればいい』という感じでしたが、最近はちょっと変わってきました。でもまだ大学は『頑張らなくても、今の自分で行けるところで』という感じなので、学校でモチベーションを上げるような働きかけをしてもらえたらありがたいなとは思っています。あとは8月にスクーリングがあるので、そこでどう変化するかですね」
ケンタ君自身の、今の学校への印象は「自分のペースでできるから、前よりよくなった」というもの。やはり以前に比べると、いろいろなプレッシャーが軽くなっているようです。
一方でユカさんは、通信制に移ったことで見えてきた全日制のいいところもあるそうです。
「大学受験をするなら、指導ノウハウも持っている全日制にいたほうが楽というのは確かですよね。それに進学校だったら、高3の夏休みはみんなが当然のように夏期講習を受けるなど、周りの様子を見て気が引き締まる部分もあると思います。
通信制は周りに縛られない自由なところが利点で、ケンタもそのおかげで過ごせているところはありますが、生徒が多様すぎて先生たちの対応も大変なので、少なくともある程度は、自ら頑張る気力がないと大変だとは思います」
自分のペースで勉強ができるということは、裏返せば自分で目標を作り、そこに向けて頑張るという自己管理が重要になってくるということです。それが合う子もいれば、ある程度「周りの空気」による後押しが必要な子もいるでしょう。
通信制高校への入学は高校卒業資格の取得を目的とする人が多いですが、その先で何がしたいのかまで少しでも考えておくと、通信制に入ってからの自由な時間を活用できそうです。
<取材・文/高碕計三>
この記事を書いたのは
高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。