続々開設!歴史ある私立高校の新設通信制コース、それぞれの特徴は?
通信制高校
2023/06/15
ここ数年、増加傾向にある通信制高校を進学先に選ぶ生徒たち。少子化に伴って高校生全体の数は年々減っている中で、通信制高校の生徒数は平成27年度で約18万人、令和2年度で約21万人、令和4年度には約24万人と、増え続けています(文部科学省・学校基本調査より)。
そして、生徒数の増加とともに、全国各地の私立高校において通信制課程を新設するケースも増えてきています。
各校がこれまでの全日制だけでなく通信制を新たに併設したのには、どのような意図があるのでしょうか?
今回は歴史と伝統のある私立高校3校にヒアリングを行い、通信制高校を設立した理由、それぞれの特徴、また通信制課程を検討している生徒・保護者に伝えたいことを伺いました。
歴史ある学校にはその学校ならではの特徴が色濃く出ますが、それは通信制課程においても同じです。各校の回答を通して、それぞれの特徴を比較していきたいと思います。
<ヒアリングにご協力くださった私立高校>
- 中京大学附属中京高等学校(愛知県)
- 麗澤高等学校(千葉県)
- 四日市メリノール学院高等学校(三重県)
生徒たちの多様な想いに寄り添うことが設立のきっかけ
Q1. 通信制過程を設立した理由・きっかけをお教えください
●中京大学附属中京高等学校さんの回答
「創立100年を迎える本校では、建学の精神である『学術とスポーツの殿堂たれ』、校訓の『真剣味』を教育理念として、多くのアスリートを輩出してきました。
令和の現在、スポーツおよび文化芸術分野では若い力が増しています。ジュニア世代であっても現役プロと肩を並べる実力を持つ生徒、各競技の強化指定選手である生徒、海外での活躍を視野に入れている生徒などさまざまです。
しかし、そのような将来の期待される生徒たちの課題となっているのが『活動と学びの両立』です。練習や試合、コンクールや海外遠征に臨む際、各自のペースで世界中のどこにいても学べる環境を提供し、夢を叶える支えとなるべく、本校では広域通信制課程を開設いたしました」
中京大附属中京高等学校といえば、中京大学もあわせてプロ野球選手やフィギュアスケートのメダリストなど、多くのアスリートを輩出していることでも有名な学校。アスリートをはじめ、特技を持つ生徒の支援体制をより充実させるため、通信制コースを設けたとのことです。広域制※であるというところが、遠征の多い生徒にとっても心強いことでしょう。
※3つ以上の都道府県から、生徒を募集できる通信制高校
●麗澤高等学校さんの回答
「本校では、創立以来『知徳一体の教育』を教育理念として掲げ、学校活動を行ってきました。それを基盤とし、通信制という新たな教育の場を開設することで、麗澤教育の裾野を広げたいとの思いが一番の理由です」
麗澤高等学校はパラリンピックの金メダルをはじめ、車いすテニスで華々しい活躍を遂げ、国民栄誉賞を受けた国枝慎吾さんの母校としても知られています。「こころ」に重点を置いた教育を行ううえで、さまざまな事情で全日制高校に通えない生徒をサポートする通信制課程を設立したのは、自然な流れだったと言えるのかもしれません。
●四日市メリノール学院高等学校さんの回答
「本校の全日制課程に入学した生徒の中には、体調面などさまざまな事情により年度中途で他の通信制高校に転学する生徒が過去にいました。こうした事例から、通信制課程を設置することで、より生徒一人ひとりに寄り添った多様な学びの場を提供したいとの想いが当初よりありました。
また、中学校卒業後の進学先として、通信制高校を第一志望に選ぶ生徒も全国的に年々増加しており、そのような現状を踏まえて全日制課程に併設する通信制課程を設立いたしました」
カトリック系のミッションスクールとして知られる四日市メリノール学院高等学校。2017年からは男女共学となりました。過去、通信制高校に転学する生徒がいたという事例を汲み、かつ近年増加する通信制高校を志望する生徒に対応する形で、通信制課程を設立したとのことです。
通信制といってもスタイルは多様
Q2. 全日制ではなく通信制だからこそ可能なこと、メリットについて教えてください。
●中京大学附属中京高等学校さんの回答
「広域通信制である本校では、世界中のどこにいても学ぶことのできることが第一のメリットです。スクーリングは前期4日、後期4日の年間8日。学級担任制をとっており、生徒と向き合いサポートする体制を整えています。もちろんこちらはオンラインに対応していて、教育相談を行っています。
また、学級を設けているのでオンラインクラスミーティングに参加することができ、同級生との絆を育むことも可能です。さらに、グローバルに活躍する生徒を応援するため、ネイティブ教員による語学指導を行っていることも強みです」
●麗澤高等学校さんの回答
「全日制に通うことができない子どもたちの受け皿としての役割に加え、やりたいことに時間を費やしながら、自分のペースで高校卒業資格も取得したい生徒たちが学べる場所として、通信制課程には新しい可能性があると実感しています。
また麗澤大学との連携も充実しており、学生食堂や図書館などの一部施設が利用可能なうえ、本校の定める基準を満たすことができれば、麗澤大学への指定校推薦を受けることもできます」
●四日市メリノール学院高等学校さんの回答
「本校は狭域の通信制高校です。それは、通信制課程であっても週5日間の通学を基本としているためです。対面の授業を直接受けたい場合は登校し、体調面などで通学が厳しい場合は在宅でオンライン授業を受けるなど、学びの自由度が高いことがメリットのひとつです。さらに、自分のペースでレポートを進めるなど、学習進度を個々の生徒に合わせられることも、通信制高校のメリットだと思います」
中京大附属中京高等学校は、広域制でありながらクラスを設けていることが個性となっています。オンラインをうまく取り入れることで、通信制でありながら一緒に学ぶ仲間とのつながりが持てることは大きな魅力です。
麗澤高等学校では通信制課程であっても指定校推薦を受けられることが強みとなっています。大学進学を考える際、選択肢が増えることは生徒にとっても嬉しい要素ですね。
四日市メリノール学院高等学校は地域密着の通信制高校で、スクーリングとは別に自主当校して授業を受けることや、オンラインにより在宅学習も選択可能と、全日制と通信制の中間的な位置づけをとっていて、自由度の高さが特徴となっています。
全日制のノウハウを活用し、別け隔てのない教育を
Q3. 貴校ならではの通信制過程カリキュラムの魅力を教えてください。
●中京大学附属中京高等学校さんの回答
「本校では全日制課程の教員が通信制においても授業を担当しています。また本校独自の学習システム『CHUKYO MaNaBo』を採用しています。インターネット環境さえあれば、世界中のどこにいてもPCやタブレット端末、スマートフォンから、各担当教員が作成した授業動画の視聴やレポートの添削を受けることができます」
●麗澤高等学校さんの回答
「全日制で培った進学指導をもとに、国公立・難関私立大学を目指す『特別進学コース』と、生活リズムを整え、自分のペースで学習を進めながら高等学校卒業と希望の進路を目指す『進学コース』を用意しています」
●四日市メリノール学院高等学校さんの回答
「最大の特徴は、月曜日から金曜日の週5日午前中に対面の授業を受けられることです。在学中の生徒が本校を選んだ理由の多くが、『毎日通える通信制課程』であることでした。中学校ではなかなか通学できなかった生徒にとって、学校で友達と一緒に昼食を食べることも楽しみのひとつのようです。登校しない(できない)生徒には、生徒の持つタブレットに授業の様子をオンラインで同時中継します。この場合も対面授業のように双方向でやり取りが可能です」
いずれの学校も、これまで培ってきた教育のノウハウをもとに、全日制と変わらない学習環境を整えているのが特色となっているのがわかります。
中京大附属中京高等学校では独自のICT教育システムを構築し、離れた場所であっても充実した教育環境を整えています。
麗澤高等学校のように難関校を目指す特別コースを設けているのは、実績ある私立高ならではといえるでしょう。
また四日市メリノール学院高等学校は、通学の意思のある生徒にとって理想的な環境を構築していることが他校との大きな違いです。
自分の個性と各校の特色がマッチしているか見てみよう
Q4. どんな生徒に入学してもらい、どんなふうに育ってほしいでしょうか。
●中京大学附属中京高等学校さんの回答
「スポーツや文化芸術等に秀でた生徒を求めています。海外留学を考えている生徒、国内外を拠点として活動する生徒、今後、自分の目標に向かって頑張りたい生徒など、自分の特技を伸ばしながら学習と両立し、自分の夢を叶え、日本全国や世界で活躍する人に育ってほしいです」
●麗澤高等学校さんの回答
「歴史と伝統のある麗澤教育に触れ、『豊かな心』と『高い知性』を育み、社会に貢献できる人物となることを目指してほしいです」
●四日市メリノール学院高等学校さんの回答
「さまざまな理由で学校を休みがちで、そのために学力が定着していなくても、勉強に対する意欲や好奇心が高く、多様な学びが可能な通信制への進学をきっかけに学力の向上を図りたいと考える生徒さんに、ぜひ来てほしいと思っています。
『勉強させられる』から『勉強する』主体的な学習スタイルを確立することで、卒業後も自らの周囲に積極的に働きかけて、より良い社会を形成できる生徒の育成を目指します」
それぞれ、これまで紹介してきた各校の特徴に適した生徒を求めていることがうかがえます。歴史ある私立高校では、これまでの実績から特徴もわかりやすく、通信制過程においても子どもの個性に合った学校選びがしやすいのではないでしょうか。
理念と実績に共感するのであれば検討したい、私立高校の通信制課程
Q5.貴校を進学先として検討する生徒・保護者様へのメッセージや、特記事項があればお願いいたします。
●中京大学附属中京高等学校さんの回答
「本気で打ち込みたいスポーツや文化芸術等がある場合、多くの時間を活動に充てたいと考える人は多いと思います。全日制高校に通うと活動時間の確保も難しいという声をよく聞きます。全日制高校では、授業に出なくては単位修得できませんし、試合や遠征が続くと、出席日数が足りず留年ということも考えられます。
本校通信制課程は、通学はスクーリングの年間8日間(前期4日・後期4日)で、あとは練習や遠征に充てることができ、海外留学も可能です。いつでも自分の好きな場所で勉強することができます。本校には、フィギュアスケート、クラシックバレエ、ゴルフ、ロードバイク等、スポーツや文化芸術面で頑張っている生徒が在籍しています。ぜひ当校で将来の夢を叶えましょう」
●麗澤高等学校さんの回答
「歴史と伝統ある麗澤高等学校では、これまで国際社会で幅広く活躍できる人材を輩出してきました。しかし、めまぐるしく変化する社会では、新たな教育のあり方が求められています。そのような状況を鑑み、令和4年度より通信制課程を設立しました。
『知徳一体の教育』『こころの教育』を基盤としている本校の通信制課程には、個性豊かな生徒が集い、一人ひとりが落ち着いた環境下で自分と向き合い、それぞれが目標に向かって切磋琢磨しています。 『この学校に来てよかった』と思える進路実現サポートや豊かな学校生活、設備環境がみなさんをお待ちしています」
●四日市メリノール学院高等学校さんの回答
「本校は、通信制高校としては令和5年度開校で歴史も伝統もまだありませんが、併設する全日制課程は60年の伝統を持つカトリック学校です。そのキリスト教精神と全日制の良き伝統を引き継ぎつつ、既存の通信制高校にはない独自の学びを目指す当校に進学していただき、新たな伝統づくりにお力をお貸しください」
今回紹介した私立校は、いずれも全日制高校として経験の長い学校です。ヒアリングの回答からもわかるとおり、新設した通信制課程でも創設時の理念を大切にし、各々の特徴を存分に活かした教育を行っています。
また、通信制課程でも全日制と変わらぬ教育の質を担保し、より多様なニーズに応えていこうとする意欲を持っていることがわかります。
従来の全日制高校が通信制課程を新設していく動きは、今後も続いていくことが予想されます。資料請求や説明会はもちろんのこと、学校の歩みや建学の精神に関して調べてみると、より学校への理解が深まり、子どもの個性にマッチした学校選びができるのではないでしょうか。
<取材・文/中島理>
この記事を書いたのは
1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。